万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

昭和元禄落語心中、第5話に登場する演目は上方ではどんな具合か、あくまで私の知る範囲で あと芝居噺とか

昭和元禄落語心中」第5話、見ました。
三角関係、進行中ですねぇ。菊さんとみよ吉さんのキスシーンも出てきて。しかしあれだな、めんどくせえ男だな、菊さんってのは(笑)。
やはり今回最大の見ものは鹿芝居のシーン。見事に化けた菊さんの艶姿も見ものですし、落語ではないけれど菊さんが初めて自分の芸に自信を持つ、重要なシーンですね。5話序盤で、助六さんの女性の演じ方にダメ出しをしているシーンが示唆的というか。女性の演じ方等、細かな心情の演じ分けに適性があることをそれとなく示唆しているシーンなわけで、それが両方の性別をまたにかけるような役を演じる事で自覚的になったというか。素直に行けばこの後、菊さんは快進撃するわけなんですけれど、さて、どうなりますか。


5話に登場した演目は、助六さんが菊さんの前で披露した「品川心中」のみです。

十代目金原亭馬生・品川心中
「品川心中」は江戸落語移植のスペシャリスト、桂文太さんが「松島心中」の演題で上方に移植し、高座にかけてらっしゃいます。
今回は登場した演目が1つだけだったのでこれにて終了。はい、解散解散……







というのもつまんないので、上方落語でよく見かける芝居噺のことなどをつらつらと。
やはり今回の最大の見どころは噺家の芝居「鹿芝居」。芝居(歌舞伎)を扱った演目を「芝居噺」などと言うそうで。狭義の芝居噺は書き割り使ったりなんたらかんたらで結構手がかかるものだそうなのですが、こちらの方は上方ではとんと見かけません。昔はあったのでしょうが、東京でもなかなかお目にかかれないものになっているようで。
広義の芝居噺となりますと「話の中に歌舞伎を取り入れたもの」となります。
上方落語の特徴としまして、演じている最中にお囃子を賑やかに導入するってのがありまして、そういった意味では芝居噺は上方落語が得意とするところかもしれません。
例えば芝居好きの若旦那が丁稚を巻き込んで大騒動を巻き起こす「七段目」

桂米團治 「七段目」
芝居好きの丁稚さんがお仕置にと閉じ込められた蔵の中で忠臣蔵を演じて見せる「蔵丁稚」

桂米朝 「蔵丁稚」
質草を蔵へ取りに来たはずの質屋の丁稚さんが仕事を忘れて芝居の真似ごとに没頭する「質屋芝居」

桂春之輔 質屋芝居
丁稚どころか一家総出で、暮らしの中で芝居を引用しまくる「蛸芝居」

桂吉朝  「蛸芝居」

これらはいずれも、登場人物が芝居好きで、日常生活でも芝居の真似をしちゃう、という筋立てですが、それ以外にもあります。
例えば、ストーリーの中に芝居が登場するのではなく、歌舞伎の演目を再現すること自体に眼目を置いた変わった演目「本能寺」(でもこれが楽しいんだ!)

米朝 本能寺
アクションシーンが歌舞伎のパロディとなっている「竜宮界龍の都(小倉船」)」

桂米朝 「小倉船」竜宮界龍都
他にも、故桂吉朝さんが復活させたレアな演目「そってん芝居」、文太さんの珍品「大江山酒呑童子 鬼切丸の由来」、歌舞伎の世界自体を舞台とした大ネタ「中村仲蔵」「淀五郎」(それぞれ露の新治さんと桂雀三郎さんの得意技です)、創作では、小佐田定雄作で吉朝さんが演じた「狐芝居」や、笑福亭たまさんによるギャグ満載の「猿之助歌舞伎」などなど。
歌舞伎に詳しかったらきっと倍楽しめるんでしょうが、私は文楽は見たことあるけれど歌舞伎はさっぱりでして*1、それでもカッコ良さを感じたり、様子が滑稽だったり、芝居の真似をしている人物たちが実に楽しそうだったり、演目によってまた演者さんによって色々と楽しみ方があって。
今、精力的に活動されていて芝居噺を得意にしてらっしゃるイメージがある方というと、露の新治さん、桂九雀さん、桂米左さん、桂よね吉さんといったところがパッと思い浮かびますですね。それ以外にも、多くの方が高座にかける、なくてはならない分野です。

*1:だってお高いんだもん

昭和元禄落語心中、第4話に登場する演目は上方ではどんな具合か、あくまで私の知る範囲で

昭和元禄落語心中」第4話、見ました。いやー、みよ吉さん、色っぽかったっすなー。芸事じゃなくて色気ばかりかと思いきや、小唄の稽古のシーンではしっかり聞かせてハッとさせる。他のシーンでは猫的な魅力をふりまいているだけに、小唄のシーンが明瞭に際立っているように思いました。

また、ドギマギする菊比古さんと海千山千のみよ吉さんの関係性が、直前に先代八雲師匠に稽古をつけてもらっていた「明烏」に登場するウブで堅い若旦那と吉原の女郎さんの関係性そのまんまで、全般的にアニメはストーリー進行のテンポが速いですが、そのおかげか、その対比が際立っているような。

また対比と言えばさ、前回、満州から帰ってきた助六さんを迎えた菊比古さんの第一声が「信さん、くさい(笑い泣き)」でしたね。んで、菊比古さんにしなだれかかろうとしてそのまま押し倒しちゃったみよ吉さんの台詞が「いい匂い」ですよ。三角関係を見事に暗示する素晴らしいセリフで。

また、その少し前のシーン、みよ吉にまた会おうといわれたことを菊比古さんが助六さんに告げるシーンも良かったですな。両者とも実にそっけない。幼馴染が「私さ……今日、告白されちゃったんだ……」「ああ、そうかい……」「それだけ?」的な! もうね! このシーンでごはん何杯も食べられるっていう方の気持ちもわかりますよ、これは!

細かいところでは、道路標識がアルファベットおよびマイル表記であるところで時代設定をさりげなく示したりしたところに感心しました。

そんで、小さな不満点も一つ。助六さんが夢金を演じているところで、ほんの少しですが一枚絵で演目中の光景(雪が降っている江戸の町)を見せたり、演じる助六さんの姿に降る雪を重ねたり凄みを見せるシーンでは下からライトアップするかのような効果を入れたりしてたんですが、あれはできればやってほしくなかった。そういったことを観客の「想像」に任せるのが落語の特徴であり魅力でもありますので、そこだけ少し残念。「そのように見せる」ではなくて「そのように見えてくる」であってほしいというか。

ともあれ、みよ吉さんのインパクトばっちりの回でありました。うんうん。



さて、第4話で登場したのは「そば清」「夢金」「明烏


菊比古さんだけにそばをとってやろうとしたつもりが楽屋にいた他の前座連中も「ごちそうさまです!」と言い出し困った師匠が名前だけ引き合いに出した演目「そば清」。上方ではそばではなく餅になって、タイトルも「蛇含草」と変わります。サゲのアイデアは共通ですが筋立てもかなり違い、東京でも「蛇含草」を高座にかける方もちらほらおられるようです。両方とも実に楽しい演目。

柳家さん喬 「そば清」

落語 桂米朝 蛇含草
上方でも頻繁に高座にかけられる「蛇含草」、多くの方が持ちネタにしてらっしゃいますが、個人的に強く印象に残っているのは桂文之助さんでしょうか。完璧なのにチャーミング。この方のCDやDVDが全く出ていないというのは七不思議の一つではないかと。「片棒」「短命」「らくだ」「たち切れ」その他、どれもこれもものすごいですよ。雀松から文之助を襲名されたときは、CDとか出るんじゃないかと期待したんだけどなぁ……
そういえば第4話の中で八雲師匠から菊比古さんが「お前には色気というか隙がない」ってなお小言いってましたけれど、文之助さんにも似たような有名なエピソードがあるのでご紹介をば。
みんな多かれ少なかれ、師匠をしくじる(失敗から師匠の機嫌を損ねる)そうなんですが、枝雀師匠に入門した文之助さん(当時雀松さん)、なんでも卒なくこなし、しくじることが全然なかったそうで。
それに業を煮やした枝雀師匠が大師匠の米朝師匠のところへ雀松さんを連れていき、「こいつ、全然しくじりませんねん!」
米朝師匠一言「……それでええやないか」


続いて助六さんが高座でかけていた「夢金」。これ、おそらく上方で今高座にかける人って、いないんじゃなかろうか。
ひょっとしたらいらっしゃるのかもしれませんが、まずお目にかかれない演目、であります。

三代目古今亭志ん朝 - 夢金
しかし、こういった「上方ではめったにお目にかかれない演目」がでてくるのも、落語心中の魅力だと思うわけで。いや、作り手側が本当に落語が好きじゃないと出てこないチョイスだと思うんですわ。1話の「鰍沢」もそうだけど。
あれですよ、極めてわかりにくい例えでいうと「好きなSF作家は?」という質問にクラークとかディックとかイーガンとか答えるんじゃなくて、グレッグ・ベアとかポール・アンダースンとか挙げるような、「一般への知名度は高くないけど確かにいい!」というチョイスというか。


3席目は菊比古さんが稽古をつけてもらっていた「明烏

落語 古今亭志ん朝 明烏
これもなかなか上方ではお目にかかれない演目ですが、こちらはこれまでの関連エントリでも何回もお名前を出しております桂文太さんが上方に移植してらっしゃいます。それ以外はちょっとわからない。

昭和元禄落語心中、第3話に登場する演目は上方ではどんな具合か、あくまで私の知る範囲で

昭和元禄落語心中」第3話見ました。今回は戦中編。1話、2話と比べて落語のシーンは少なめ。これは実際に落語を演じる場や機会が少なくなっている作中と対応させているのでしょう。不承不承足を踏み入れた落語の世界に菊比古さんがどっぷりはまっていく、派手ではないですがとても重要な回ですね。ラストシーンでいよいよトリックスターたるみよ吉さんの登場。「長ぇ夜になりそうだ……」から始まった過去の回想話なのに「続きはまた明晩」で締めてしまったのは、まぁご愛敬で(笑)。
「落語の歴史」の側面が強調された第3話でしたが、「昭和元禄落語心中」は落語が実際にたどったものとは違う歴史を展開していく、歴史ifモノでもあったりします。「はなし塚」含めて、ここまではほぼ正史通り、さてここから先はお楽しみ。
で、白状しますが、演目名がわからないのが3つもありました。疎開先で菊比古さんが1人稽古している話と、終戦後帰京した菊比古さんがお座敷で披露している2席。いや、ちゃうねん。おっちゃん、落語ファン歴が浅い上に普段上方ばっかり聞いているもんやさかい、江戸落語イントロクイズは苦手やねん……


というわけで第3話で大きく扱われた演目は「黄金餅」と「あくび指南」のふたつでした。


七代目立川談志 - 黄金餅

黄金餅」は東京の話で、上方では桂文太さんが「よもぎ餅」の演題で高座にかけていらっしゃるのしか私は聞いたことがありません。検索して調べたところ、桂文我さんも「はらわた餅」の演題でやってらっしゃる様子。しかし「はらわた餅」とは、これまたえぐいタイトルですな(笑)。




桂南光 「あくびの稽古」

「あくび指南」、メジャーなタイトルなので上方でも演じられているようで案外演じられていない話。米朝師匠や枝雀さんも手がけている話ですから、もっと頻繁に遭遇しても良さそうなものなんですが、案外そうでもないのです。しかしその割に「現在の関西ではマイナー」なイメージがないのは、ビッグネームの桂南光さんが手がけてらっしゃるからでしょうか。「あくび指南」もしくは「あくびの稽古」の演題でやってらっしゃいます。他にも桂九雀さん、林家花丸さんで聞いたことあり。
しかしあれだ、持ちネタの多い方の名前がずらりと並ぶなぁ(笑)。また、江戸の落語を上方に移植するとなると、やはり同じ名前が何回も挙がってきちゃいますね。いや、それだけ桂文太桂文我桂九雀の御三方がチートなんですよ(笑)。


追記:Twitterで、南光さんも「黄金餅」を手がけてらっしゃると教えていただきました。ありがとうございます!

昭和元禄落語心中、第2話に登場する演目は上方ではどんな具合か、あくまで私の知る範囲で

昭和元禄落語心中第2話、見ましたですよ。初回がスペシャルで長かったせいもあるのでしょうが、なんかあっという間というか、「えっ!? もう終わり!?」みたいな。
やっぱり若き日の八雲師匠たる菊比古さんの初高座のダダ滑りっぷりが見どころでしょうか。第1話では汗一つかかなかった当代八雲師匠が初高座で、まだ一言もしゃべっていないのに座布団の上にぽたりと落とした汗、つまんなそうにしているお客さん、そして実際つまらない高座(いや、演技でそれやっているのがすごいんですが)、自分でもダダ滑りしているのを十分にわかっていて耐えるように腿をぎゅっと力を入れてつかむ様子、焦燥感とシンクロするように演じる声をかき消すみたく鳴り響くBGM、いや、1話もそうでしたけど、やはり丁寧だなあ、と。
その次に自由奔放な高座を演じてみせた初太郎さん(後の助六さん)、まず最初に大きな声をあげて観客の注意を引きつけるなんていう初高座らしからぬテクニックなんかも使っちゃったりして。あのサゲ(オチ)は誰かがやってらっしゃる形なんでしょうか。それともオリジナルなんでしょうか。wikipedia読んでみたら小遊三さんが似て非なるやり方で高座にかけてらっしゃるみたいなんですが。今後中堅となり円熟味を増していく助六さんを山寺宏一さんがどのように演じられるのかも楽しみです。あの元気な「時そば」から進化していく様子がどのように表現されていくのか。ワクワクしますですよ。


今回登場した演目は3つでした。
まずは少年期、先代八雲師匠のところに押しかけた助六さんが見よう見まねで披露する「野ざらし

柳家小三治 「野ざらし」
上方ではこれの原型に近いのではないかという話が残っていまして、題名が「骨釣り」

落語 桂米朝「骨釣り」
両方とも中心となるアイデアは同じですが、登場人物や展開がかなり異なっています。「骨釣り」は高座にかかる機会が多いとは言えない話だと思いますが、それでも米朝一門の米二さんで聞いたことがあります。また、米朝師匠のほかにも南光さんの「骨つり」もCD化されていますですね。オチの感じがかなりドタバタというか、「野ざらし」とはかなり違うものになっていて、好きです。
ただ、「骨つり」ではなく東京の形での「野ざらし」を演じられる落語家さんも結構いらっしゃいます。私の遭遇しただけでも、笑福亭喬若さん、桂春蝶さん、桂坊枝さん、桂まん我さん、桂枝女太(しめた)さん、笑福亭鉄瓶さん。というか喬若さんにいたっては、生では「野ざらし」にしか遭遇したことなかったりしますが(笑)。
あと忘れちゃいけない露の新治さん。近年、大阪よりもむしろ東京で人気に火のついたベテランの落語家さんで、大阪でもじわじわチケットがとりにくくなりつつある実力派さんです。
ご陽気で華やか、豪快さよりも繊細さを感じさせる花のある高座を聞かせてもらえる方。ご陽気で華やかなんだけども「紙入れ」みたいな色気のある話や「大丸屋騒動」なんていう陰のある話もじっくり聞かせてくれます。「大丸屋騒動」は高座にかける人も少ないせい演目ですが、もう大好きなんですよ。残念ながら生で聞いたことはありません。今は亡き落語配信サイト「落語の蔵」で購入したんですが……でも安心、今ならiTunesでいくつかの高座が配信されています。上方落語は東京に比べてソフト化や配信に恵まれていないんですが、ぜひとも聞いていただきたい落語家さんです。


二つ目は若き日の当代八雲師匠たる菊比古さんが初高座でかける「子ほめ」

落語 桂春団治 子ほめ
前座さんが頻繁に演じられる演目の一つで、上方でも「子ほめ」を持ちネタにしていない方のほうが少数派じゃないかと思います。
だもんで、なかなかベテランさん、中堅さんの「子ほめ」を聞く機会は限られるわけで、そんな中で挙げるとしたらやはりつい先日亡くなられた春團治師匠……なんだろうと思うんですが、私、春團治師匠の高座を生では2回しか見たことなくて。「高尾」「皿屋敷」は見たんだけれど「子ほめ」は見たことないんだよなぁ……音源で聞いたことはもちろんあるんですが。やっぱりDVDボックス買った方がいいかなぁ……でも結構なお値段するし、Windows10に更新しちゃったせいでドライバのソフトも買わないと見れないしなぁ……貯金か。やはり貯金するしかないのか。
全部貧乏が悪いんだ。



三つめはこれもおなじみ「時そば

瀧川鯉昇 「時そば」
関西ではそばではなくうどんで、「時うどん」として演じられますが、話の構成がだいぶ違います。登場人物も違いますし、どこで笑わせるかというポイントも全然違うので、「『時そば』は知っているけれど『時うどん』は知らない」という方はぜひ一度聞いてみていただきたいです。

落語 桂枝雀 時うどん
これも持ちネタとされている落語家さんが多いネタなのですが、故 桂吉朝さんのお弟子さんたち(吉朝一門)のみなさんは、そばじゃなくうどんなんですが上方の形ではなく東京の形で演じられます。個人的な思い出なんですが、初めて生の落語を聞きに繁昌亭へ行ったときに吉朝一門の桂よね吉さんがその「時うどん」演じられてまして。これがもうむちゃくちゃ面白くて、帰りに売店で売ってたCDを即購入してホクホク顔で帰ったんですよねぇ。思い出すわぁ。笑福亭仁智さんとか、林家染丸さんとかもその時初めて見たんだよなぁ。
あとなんといっても笑福亭福笑さんの「時うどん」。CDには「刻うどん」のタイトルで収録されていますが、まぁ、時うどんです(笑)。福笑さん、今上方の落語家で「爆笑王」と呼べるのは誰と言ったら必ず名前が挙がる方だと思うんですが、とても放送できないような過激な内容含め、破壊的な新作落語で知られます(例えばね、全世界で原発が忌避される中で、ミクロネシアの小国が原発を誘致することで村おこしならぬ「国起こし」をしようと目論む「大統領の陰謀」なんて話とか、どうやって思いつくんだ!)。もう、笑わせるためならなにしてもいいというような!
それでいて実は、お客さんにもわかりやすいように非常に丁寧にマクラでサゲの伏線を張ったり、話の中でもわかりにくそうなところを実に丁寧に説明したりと「過激で、わかりやすくて、腹の底から笑える」信頼感抜群の方です。
これまた個人的な思い出なんですが、トリで福笑さんが出るのに観客がわずか7人だった落語会に遭遇したことがありまして……その時の熱演はもう、ものすごかったです。第一声でいきなり「感謝します!」と。お客さんの多い少ないじゃなくて、みなさんが来てくれたからこの場があるんだ。ありがとうございます。本当に感謝します、という具合で何度も何度もわずか7人に感謝してからの大熱演。わずか7人だったけれど、終演後、7人の拍手がなかなか鳴りやまなかったですもの。もうあれ以来、絶対的に信頼しちゃってるんですが。
そんな福笑さん、古典を演じられる時も大胆にアレンジ。この「時うどん」も東京版と上方版のおいしいとこどりをしようとでもいうようなアレンジ、すごいパワーでぐいぐい引っ張られます。もし聞かれる機会がありましたら、ぜひぜひ!

昭和元禄落語心中、第1話に登場する演目を上方では誰がやっているかについて、あくまで私の知る範囲で

昭和元禄落語心中アニメ化で、落語に興味を持ってくれる人が増えればいいなぁと思っているのだけれど、落語心中の舞台は東京。私は現在大阪在住で普段は上方落語を聞いて楽しんでいるわけで。
だもんで、落語心中に登場した演目を、上方では誰が演じているか、私が遭遇した範囲内でも書いておけば、少しでも誰かの案内になるかなぁとか思った次第。


まずは「死神」。明治期の東京の大名人、三遊亭圓朝作の演目なので、いまだに上方に根付いているとは言い難いです。
私が遭遇した範囲内では桂文太さん、桂文我さん、笑福亭竹林さん、桂枝三郎さん、笑福亭たまさんが高座にかけてらっしゃいました。
この中でも文太さんと文我さんは、もう演目数に関してはチートレベルというか。「実は米朝師匠より持ちネタは多いらしい」と聞いても納得してしまうような、そんなところがある。文我さんなどは「むしろありふれた演目をやっている方がレア」な気さえするし、文太さんも東京の話をどんどん上方へ移植し、お二人とも違和感なく安定して聞かせてくれる、すごいお人なのです。


続いてほんのちょっぴり、ラジオから流れてくるという形で登場した「二番煎じ」。
私が遭遇した限りでは桂雀三郎さん、桂塩鯛さん。遭遇はしていないのだけれど、第1回放送直後、先の日曜日の会で桂まん我さんもかけられたらしい(まん我さん、先に名前を挙げた文我さんのお弟子さんで、作者の雲田はるこさんとも交友をもっておられて落語会でジョイントなんかしちゃった実績のある方)。
雀三郎さん、塩鯛さん、どちらも爆笑の高座だったと記憶しています。熱演で客席を巻き込んでいく塩鯛さん。雀三郎さんは、twitterのフォロワーさん曰く「雀三郎が楽しそうにやっていたら、そりゃ無敵だろう」とのことで、本当、そう思います。古典落語で爆笑させるのだったら、もしかしたら一番かもしれない、くらい思ってますですよ。


続いて劇中で与太郎さんが熱演する「出来心」。上方では「花色木綿」の題で演じられます。
上方では別の題名がついているくらいですから比較的頻繁に演じられる演目なので、多くの落語家さんの名前を挙げるのは控えさせてもらって。印象に強く残っているのは笑福亭三喬さん。飄々とした語り口で、基本きっちりと演じられるのですが時として自由自在に時事ネタやら現代風のくすぐりやら放り込んでくる、凄腕の中堅さんです。軽めのネタから変化球の「べかこ」、大ネタ「三十石」までなんでもござれ。また、定席の天満天神繁昌亭に出るときも色んなネタかけてくれるんですよねぇ。これは文太さんもそうなのだけれど。
「東京の落語は少し聞くけど上方はあんまり……」という方には「柳家喬太郎さんと長くふたり会をやっている落語家さん」と言ったら興味を持ってもらえるでしょうか。


次に、八雲師匠の独演会の前座として高座に上がった与太郎さんが大苦戦しまくる「初天神」。
これも上方でも頻繁に演じられる話です。「花色木綿」以上に落語会や寄席での遭遇率も高い!
こちらも印象に強く残っている落語家さんだけ挙げさせていただくと、桂文太さん、笑福亭竹林さん。桂米二さん。
私、文太さんの高座を初めて見たのが「初天神」でして。その当時は落語を生で聞き始めて間がない頃で、面白かった落語家さんの名前を憶えて、帰宅してから検索して調べたりしていたわけですよ。そしたら驚愕の事実が。
「え!? あの文太さんっていう人、視覚障碍者なの!?」
そうなんです。真っ黒でお利口な盲導犬、その名もデイリーと一緒に会場入りされる立派な(?)視覚障碍者なのです、文太さん。でも、見ている間はただただ面白いばかりで、そんなこと全然わからなかった!
竹林さんはちょいとグルーミーな感じを漂わせる痩せ気味の落語家さん。最初に挙げた「死神」でも、ニヤニヤ笑う妙に陽気な(でも少し不気味な)死神も印象深いんですが、「初天神」では、口は悪いながらも子供をあやしているうちに実に嬉しそうな顔を見せる父親や、ませた物言いしながらもそのうち子供っぽく駄々をこね始める息子が実にチャーミングで印象に残っています。寂寥感漂うほろりとくる秋の話「まめだ」なんかもいいのよねぇ……ご陽気な中にも情が垣間見えるというか、そういうの、すごく達者な方です。
そして米二さん。何を隠そういや別に隠さなくても私が一番好きな落語家さんなんですが、基本、きっちり丁寧にやられる方で、じわじわじわじわ客席を巻き込んでいく、だもんで話が長ければ長いほど楽しさが大きくなっていくような方です。爆笑じゃなくて、聞いているうちにどんどん引き込まれていくタイプ。米二さんの「菊枝仏壇」「百年目」「千両みかん」「動乱の幸助」「代書」あたりはもう、私にとってはこの上ないごちそうです。
で、この初天神、途中までで切られることが多い演目なんですけれど、米二さんは時間さえ許せば最後まで演じてくれる貴重な方の1人。ぜひぜひ。


最後に八雲師匠が独演会で演じる「鰍沢」。これも三遊亭圓朝作で、上方ではほとんど演じられない演目です。
文我さんや枝三郎さんあたりもしかしたら持ってらっしゃるネタかもしれませんが、私が遭遇したのは桂文太さんのみ。「無妙沢」の題で演じられてます。なんか文太さんの登場比率高いですが、仕方ないんですよ! 私悪くないよ! 東京のネタを上方に移植するエキスパートみたいな方ですから。他にも「よもぎ餅(黄金餅)」やら「袈裟茶屋(錦の袈裟)」やら「松島心中(品川心中)」やら「八五郎出世」やら。またどれも面白いんだよ……


あともう一つ番外編で。


作者の雲田はるこさんのtweetによるとDVDには「宿屋の仇討」も収録されるとのこと。上方では「宿屋仇」の題で演じられており、大ネタとして知られています。米二さんの著書「上方落語十八番でございます」161ページから引用しますと……

うちの師匠も言うたことがあります。
「一ぺん、この『宿屋仇』を完璧にやってみたいなあ」
うちの師匠でも一度も完璧にできてないと言うんです。

いや、うちの師匠って、あの人間国宝桂米朝がこう言うんですよ? 劇中で演じる石田彰さんにとってはもう拷問ではないかと(笑)
上方落語の世界を舞台としたコミック、逢坂みえこの「たまちゃんハウス」でも、下座(お囃子さんのことです)との連携がとても重要な話として大きく取り上げられていましたっけか……
これも多くの方が演じられているのですが、おひとり、桂九雀さん。くじゃく、と読みます。
ご陽気かつサービス精神に富んだ高座で楽しませてくれる方なのですが、非常にプロデュース能力に長けてらっしゃいます。演劇と落語をジョイントさせてみたり(「噺劇」と銘打って定期的に公演されてます)、吹奏楽忠臣蔵と落語を組み合わせてみたり。かと思えばろうそくの明かりだけで楽しむ小規模な会を企画したり、投げ銭制の(本当に投げないように)勉強会を頻繁に開かれたり。また古典落語を現代風に改作されたり、米朝師匠の若き日の創作落語を復活させたり。田中啓文さんの落語ミステリ《笑酔亭梅寿謎解噺》を舞台化して3人で演じられたりもしましたっけ。あれは面白かった! どの演目をやるかだけではなく何をやるかも楽しみな落語家さんです。


以上、あくまで私の知る範囲での「昭和元禄落語心中」アニメ第1話で登場した演目は上方では誰がやっているかのお話でした。私より詳しい方は星の数ほどいらっしゃるので念のため。
2話以降も落語がたくさん出てくるといいなぁ。

昭和元禄落語心中、第1話を見ての個人的な感想と演目と萌えポイント

昭和元禄落語心中、見終わった。原作は読んでいるけれど、アニメは全くの初見。丁寧に作ってあるなぁ!面白かった!


登場した話は
「死神」

【落語】柳家小三治/死神(1996年)

「二番煎じ」(←小夏がラジオで聞いてるやつ)

落語 春風亭昇太 二番煎じ


「出来心」(上方では「花色木綿」)

落語:花色木綿 桂文我


初天神

柳家さん喬 初天神


鰍沢

【ラジオ寄席】落語 林家正雀「鰍沢」Rakugo



劇中でかかるお囃子は、まず「らくだ」でおなじみ「かんかんのう」

松鶴 らくだ


前座修行の場面でかかる、柳亭市馬さんの出囃子でおなじみ「吾妻八景」

柳亭市馬:掛取萬歳:2006年1月


次回予告でかかる古今亭志ん朝専用「老松」

志ん朝 文七元結


しっかし、丁寧だったねぇ。
松田さんが、八雲師匠が小夏さんを「お引き受け(おしきうけ)」したとか、八雲師匠が与太さんと助六さんが似ていることを指して似たような奴に「引っかかっちまった(しっかかっちまった)」とか。江戸弁。

与太さんが出来心を熱演するとき、汗を拭くのも忘れる熱中ぶりで、流れる汗だけではなく着物の膝の裏が汗で湿っているさまで表現したり、最後、座布団から外れて頭を下げるとこで必死さを表現したり。
対称的に次の師匠の落語が、むしろ汗をかくことが許されない「鰍沢」とかw(真冬の話)

あと、兄貴分が口を挟もうとした小夏さんに「女は黙ってろォ!」とすごんだシーン、案外重要だなって。
今だとね、女流噺家何人もいるの。でもあの世界では存在しないのよ。
そういう「古い価値観」を象徴する一言というか。作者の雲田はる子さんがこの作品は志ん朝米朝が落語界にいないifの話だと言っていたそうだけれど、初の女流である露の都もいない。
原作では後々「上方はさらに壊滅的な状況である」ことが示されるのだけれど、そこまでは多分行かない、よなぁ。今作は東京が舞台だけれど、折に触れ「上方で孤軍奮闘する最後の落語家」萬月さんが登場したり、リアルでは上方落語家の桂まん我さんと落語界でジョイントしたり、きちんと上方も意識してくれているのが上方ファンとしてはとても嬉しかったり。
しかしあれですよ。八雲師匠を演じる石田彰さんと与太郎を演じる関智一さんの落語シーンの演技が賞賛されているけれど、もし萬月さんの高座シーンもなんてことになったら遊佐浩二さん大変だわなぁ。なにせ原作では披露する演目が「東の旅 発端」。見台の「叩き」やんなきゃいけない(笑)。

進化論ファン・古生物ファン必読の〈生物ミステリー プロ〉シリーズは、世界に誇れるガイドブックだ!

技術評論社から刊行中の土屋健著〈生物ミステリー プロ〉シリーズが、もうめちゃくちゃ楽しい。
現在既刊は8冊。それぞれこんな感じ。

①「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」
地球上に登場した「生物」たち! 奇想天外なエディアカラ、バージェス、オルステン動物群! そしてそれらを生み出した「カンブリア爆発」とは!?


②「オルドビス紀シルル紀の生物」
多様性を増していく生物たちに襲い掛かるオルドビス紀の大量絶滅!そしてウミサソリ三葉虫の時代がやってくる! そしていよいよ植物が上陸開始!


③「デボン紀の生物」
着々と陸上進出を進める植物たちを尻目に、ついに脊椎動物が海洋を握った「大魚類時代」到来! サメvs硬骨魚類の戦いの中、一部の魚類はついに地上を目指す!


④「石炭紀ペルム紀の生物」
地上で繁栄する植物たちと昆虫たちに囲まれつつ、上陸を本格化させる脊椎動物たち! 両生類の繁栄、爬虫類の登場! そして古生代の締めくくりは史上最大! 96%の生物種を消し去ったペルム紀末の大量絶滅の原因とは!?


⑤「三畳紀の生物」
いよいよ始まった中生代! 大量絶滅でリセットされた世界に遂に登場した恐竜たち! しかし恐竜が覇権を握るのは三畳紀末の大量絶滅後の話。三畳紀を牛耳った生物とは!?



⑥「ジュラ紀の生物」
恐竜時代到来! 猫も杓子もジュラシック! 哺乳類もジワリと多様化しつつも、恐竜は繁栄を極める! そしていま明らかになる「始祖鳥の色」とは!?



⑦「白亜紀の生物 上巻」
⑧「白亜紀の生物 下巻」
やってきました中生代! とうとうこれで締めくくり! いよいよティラノサウルスが登場し、アンモナイトは海中でやたらグルグル巻き! そしてとうとう空から隕石が落ちてきた!


煽り文句は勝手に作った。
1冊2680円(税別)と、まとめて買おうとすると少しお高いが、むしろコストパフォーマンスは良い方の部類に属する本だ。なんなら図書館にリクエストしたりしてもいいと思う。
進化論ファン・古生物ファンは必読、最強のガイドブックですよ、こいつは!
以下、その魅力をいくつか挙げていこう



・化石写真や復元図がカラーで豊富に収録されている。しかも!
へんないきもの」ってな本がヒットしたことがあったが、やはり現在では考えられないようなへんてこな生物がかつては存在していたことを知るというのは、古生物に関する本を読むうえで大変な楽しみのひとつだ。
本シリーズでは、カンブリア紀だけとか白亜紀だけとかではなく、すべての紀を舞台にしてへんてこりんな生物たちが大活躍するさまを堪能できる。最高じゃないか!
しかしだ、ただへんてこりんな生物がたくさん収録されているだけの本ではない。それでは「分厚くなった『へんないきもの』」に過ぎない。
本シリーズは、たとえ見た目がなんてことのない生き物でも、それが進化の歴史を語るうえで欠かすことのできない生き物ならば、躊躇なくそれを取り上げる。そして、その生物が進化を語るうえでどのような位置を占めているのか、簡潔かつ丁寧に、ユーモアを交えつつ解説していく。
例えば2巻「オルドビス紀シルル紀の生物」で、何の変哲もない魚の化石と復元図が載っているけれども……それが現在知られている中で最古の「顎」を持った生物の化石だと知れば、見る目も変わってくるでしょう? そして「顎」が脊椎動物において世紀の大発明であったことを解説していくわけよ。素晴らしい。


・最新の論文も取り上げられている痒い所に手が届く内容
生物の歴史を語る上で様々なトピックが取り上げられるのだけれど、所々に2010年代に入ってからの最新の知見が顔を出す。そうそう、それが知りたかったんだよ! という痒い所に手が届く内容だ。
例えば「ティクターリク」という魚がいる。通称「腕立て伏せができる魚」。胸鰭の中に現在の我々と似たような骨格、関節を持ち、魚類から両生類への進化のミッシングリンクを埋める存在として有名な魚だ。
で、さらりと、2014年にティクターリクの後半身が新たに発見され、大きな骨盤と、鰭状だがやはり胸鰭と同じように骨格や関節を備えたいわば「後ろ足」が発見されたなんて書いてあるわけですよ。たまんないね、もう!


・大量に挙げられる、日本語で読める参考文献
本書の構成の一つのパターンとして「ある化石の発掘場所(化石がよく出てくる場所ね)からでてくる化石群、もしくは進化の歴史上でのトピックを語る上で、既刊の書籍を下敷きにして解説していく」というスタイルをとっている。
何がありがたいかって、挙げられる参考文献に日本語で読めるものが多いことだ。
進化に関する本を読んだことがある人ならわかってもらえるのではないかと思うのだけれど……あれ、なんとかならんかね、本文の終了後に数十ページ延々と続く脚注の山と英語の参考文献のリスト。
いちいちページを往復しながら脚注を読んだり、大量の英語の参考文献の山から邦訳されているものをみつけだし、さらにページを遡ってこれはなんの問題について語った時の本かななんて調べていくなんてのは、もう苦行に近い。
その点、本シリーズはとても親切だ。巻末の脚注がそもそもない上に、日本で書かれただけに挙げられる参考文献も日本語で読めるものが類書と比べるとずっと多い。しかも参考文献リストを見なくても本文で「それでは、××について、『○○』と『△△』を参考に見ていこう」と言及してくれるので、興味を持ったトピックについての参考文献がとても印象に残りやすい。なんて親切な!


・そしてユーモアを忘れない
簡潔で抑制のきいた本文だが、所々でユーモアが噴出しており、それが読み進めていく上で大変な魅力となっている。
例えば古生物の化石をアニメに登場するキャラクターに例えたり、珍しい状態で発見された化石(出産中の化石とか)について語る際に出産中に死んでしまった当の生物にいちいち哀悼の意を捧げたり、古生物の大きさを述べる際に比較対象としていちいち著者の愛犬(ラブラドールレトリバー)を何回も何回も引き合いに出したりとか。そういった控えめなユーモアが大変によろしい。特に日本で書かれた類書に多いように思うけれど、いくら図版が多くても、いくら志が高くても、本文が無味乾燥では本としての魅力は半減してしまう。やっぱり、文章が面白くないと!


というわけで、生物の歴史を概観する本というとフォーティの「生命40億年全史」(文庫 生命40億年全史 上 (草思社文庫)
文庫 生命40億年全史 下 (草思社文庫)
)が有名だし、個人的にはリチャード・サウスウッドの「生命進化の物語」(生命進化の物語
)が決定版だと思っていたけれど、本シリーズはその両者を凌駕すると思うので、マジでお薦め! いわばあれですよ、世界に誇れるレベルのガイドブックですよ!