万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

昭和元禄落語心中、第2話に登場する演目は上方ではどんな具合か、あくまで私の知る範囲で

昭和元禄落語心中第2話、見ましたですよ。初回がスペシャルで長かったせいもあるのでしょうが、なんかあっという間というか、「えっ!? もう終わり!?」みたいな。
やっぱり若き日の八雲師匠たる菊比古さんの初高座のダダ滑りっぷりが見どころでしょうか。第1話では汗一つかかなかった当代八雲師匠が初高座で、まだ一言もしゃべっていないのに座布団の上にぽたりと落とした汗、つまんなそうにしているお客さん、そして実際つまらない高座(いや、演技でそれやっているのがすごいんですが)、自分でもダダ滑りしているのを十分にわかっていて耐えるように腿をぎゅっと力を入れてつかむ様子、焦燥感とシンクロするように演じる声をかき消すみたく鳴り響くBGM、いや、1話もそうでしたけど、やはり丁寧だなあ、と。
その次に自由奔放な高座を演じてみせた初太郎さん(後の助六さん)、まず最初に大きな声をあげて観客の注意を引きつけるなんていう初高座らしからぬテクニックなんかも使っちゃったりして。あのサゲ(オチ)は誰かがやってらっしゃる形なんでしょうか。それともオリジナルなんでしょうか。wikipedia読んでみたら小遊三さんが似て非なるやり方で高座にかけてらっしゃるみたいなんですが。今後中堅となり円熟味を増していく助六さんを山寺宏一さんがどのように演じられるのかも楽しみです。あの元気な「時そば」から進化していく様子がどのように表現されていくのか。ワクワクしますですよ。


今回登場した演目は3つでした。
まずは少年期、先代八雲師匠のところに押しかけた助六さんが見よう見まねで披露する「野ざらし

柳家小三治 「野ざらし」
上方ではこれの原型に近いのではないかという話が残っていまして、題名が「骨釣り」

落語 桂米朝「骨釣り」
両方とも中心となるアイデアは同じですが、登場人物や展開がかなり異なっています。「骨釣り」は高座にかかる機会が多いとは言えない話だと思いますが、それでも米朝一門の米二さんで聞いたことがあります。また、米朝師匠のほかにも南光さんの「骨つり」もCD化されていますですね。オチの感じがかなりドタバタというか、「野ざらし」とはかなり違うものになっていて、好きです。
ただ、「骨つり」ではなく東京の形での「野ざらし」を演じられる落語家さんも結構いらっしゃいます。私の遭遇しただけでも、笑福亭喬若さん、桂春蝶さん、桂坊枝さん、桂まん我さん、桂枝女太(しめた)さん、笑福亭鉄瓶さん。というか喬若さんにいたっては、生では「野ざらし」にしか遭遇したことなかったりしますが(笑)。
あと忘れちゃいけない露の新治さん。近年、大阪よりもむしろ東京で人気に火のついたベテランの落語家さんで、大阪でもじわじわチケットがとりにくくなりつつある実力派さんです。
ご陽気で華やか、豪快さよりも繊細さを感じさせる花のある高座を聞かせてもらえる方。ご陽気で華やかなんだけども「紙入れ」みたいな色気のある話や「大丸屋騒動」なんていう陰のある話もじっくり聞かせてくれます。「大丸屋騒動」は高座にかける人も少ないせい演目ですが、もう大好きなんですよ。残念ながら生で聞いたことはありません。今は亡き落語配信サイト「落語の蔵」で購入したんですが……でも安心、今ならiTunesでいくつかの高座が配信されています。上方落語は東京に比べてソフト化や配信に恵まれていないんですが、ぜひとも聞いていただきたい落語家さんです。


二つ目は若き日の当代八雲師匠たる菊比古さんが初高座でかける「子ほめ」

落語 桂春団治 子ほめ
前座さんが頻繁に演じられる演目の一つで、上方でも「子ほめ」を持ちネタにしていない方のほうが少数派じゃないかと思います。
だもんで、なかなかベテランさん、中堅さんの「子ほめ」を聞く機会は限られるわけで、そんな中で挙げるとしたらやはりつい先日亡くなられた春團治師匠……なんだろうと思うんですが、私、春團治師匠の高座を生では2回しか見たことなくて。「高尾」「皿屋敷」は見たんだけれど「子ほめ」は見たことないんだよなぁ……音源で聞いたことはもちろんあるんですが。やっぱりDVDボックス買った方がいいかなぁ……でも結構なお値段するし、Windows10に更新しちゃったせいでドライバのソフトも買わないと見れないしなぁ……貯金か。やはり貯金するしかないのか。
全部貧乏が悪いんだ。



三つめはこれもおなじみ「時そば

瀧川鯉昇 「時そば」
関西ではそばではなくうどんで、「時うどん」として演じられますが、話の構成がだいぶ違います。登場人物も違いますし、どこで笑わせるかというポイントも全然違うので、「『時そば』は知っているけれど『時うどん』は知らない」という方はぜひ一度聞いてみていただきたいです。

落語 桂枝雀 時うどん
これも持ちネタとされている落語家さんが多いネタなのですが、故 桂吉朝さんのお弟子さんたち(吉朝一門)のみなさんは、そばじゃなくうどんなんですが上方の形ではなく東京の形で演じられます。個人的な思い出なんですが、初めて生の落語を聞きに繁昌亭へ行ったときに吉朝一門の桂よね吉さんがその「時うどん」演じられてまして。これがもうむちゃくちゃ面白くて、帰りに売店で売ってたCDを即購入してホクホク顔で帰ったんですよねぇ。思い出すわぁ。笑福亭仁智さんとか、林家染丸さんとかもその時初めて見たんだよなぁ。
あとなんといっても笑福亭福笑さんの「時うどん」。CDには「刻うどん」のタイトルで収録されていますが、まぁ、時うどんです(笑)。福笑さん、今上方の落語家で「爆笑王」と呼べるのは誰と言ったら必ず名前が挙がる方だと思うんですが、とても放送できないような過激な内容含め、破壊的な新作落語で知られます(例えばね、全世界で原発が忌避される中で、ミクロネシアの小国が原発を誘致することで村おこしならぬ「国起こし」をしようと目論む「大統領の陰謀」なんて話とか、どうやって思いつくんだ!)。もう、笑わせるためならなにしてもいいというような!
それでいて実は、お客さんにもわかりやすいように非常に丁寧にマクラでサゲの伏線を張ったり、話の中でもわかりにくそうなところを実に丁寧に説明したりと「過激で、わかりやすくて、腹の底から笑える」信頼感抜群の方です。
これまた個人的な思い出なんですが、トリで福笑さんが出るのに観客がわずか7人だった落語会に遭遇したことがありまして……その時の熱演はもう、ものすごかったです。第一声でいきなり「感謝します!」と。お客さんの多い少ないじゃなくて、みなさんが来てくれたからこの場があるんだ。ありがとうございます。本当に感謝します、という具合で何度も何度もわずか7人に感謝してからの大熱演。わずか7人だったけれど、終演後、7人の拍手がなかなか鳴りやまなかったですもの。もうあれ以来、絶対的に信頼しちゃってるんですが。
そんな福笑さん、古典を演じられる時も大胆にアレンジ。この「時うどん」も東京版と上方版のおいしいとこどりをしようとでもいうようなアレンジ、すごいパワーでぐいぐい引っ張られます。もし聞かれる機会がありましたら、ぜひぜひ!