万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

著作権から日常的に被っているはずの不利益について/それは非常に見えにくい/相対的な利益と不利益


著作権:「死後70年」に延長 文芸家協会など要望へ−今日の話題:MSN毎日インタラクティブ

著作権の保護期間を延長してほしいという要望が、本日22日出されるそうだ。
延長してどんな利益・不利益があるのだろうか。


よくよく考えてみると、私たちは日常的に著作権の保護による不利益を被っているはずなのである。
だがしかしだ、情報の送り手にならない限り、その「不利益」というのが非常に意識しにくいというのがミソなのだ。


何らかの情報を発信しようとした場合には、その「不利益」というのは明らかだ。
まあ、他人の書いた文章やら他人の作った音楽やら映像やら絵やら写真やら、勝手に使うとまずいわな、そりゃ。もちろん引用はOKだけど。その日の気分で歌詞をブログに載っけたくなっても、勝手にやっちゃダメですよ、と。
では受け手の立場に限定した場合、私たちはどんな不利益を受けているのか。
これがアレだよ、従来あまりにも日常的であったために、非常に意識しにくいっつうのが、なんつーか、最大の問題である気がするのだ。


例えば、著作権の保護期間が突然「発表後5年」に縮まったとする。で、世に出される新作の数はそれでも減らないと仮定する(あくまで仮定だ。実際にはそんな無茶なことしたら、それこそ著作権者にとってはおまんまの食い上げである。新作の数なんぞ激減するに決まっている)。
世に流通する著作物の数は(有料・無料問わず)そりゃ増えるだろう。元手がかからなくなるし、ややこしい手続きも要らなくなるし。
しかし実際には著作権の保護期間は著作者の死後50年であったり、映画の公開後70年であったりするわけで、その分、世に流通する著作物の数は著作権の保護期間がない場合に比べて減っているはずなのである。著作権の保護によって「不利益」を被っているのだ*1


でも、普段そんなこと意識しないよねぇ?
読みたいと思った本や聞きたいと思った曲が入手困難だったら、古本屋や中古レコード屋を行脚し、心の中で、もしくは堂々と出版社やレコード会社に呪詛の言葉を吐き*2、お目当てのものが見つかったらスキップしながら帰途に就き、周りから白い目で見られる。普通はそれでおしまいだよな。
ぶっちゃけさ、えらい人がいくら問題だっつっても、従来の認識でいくと、著作権の保護期間が死後50年から70年に延びたところで、ずっと不利益被った状態で来てるんだから、今更20年延びたところでよくわかんねえんだよ、実際のところ。ましてや、さっきとは別のえらい人が「延長すべきだ」っつってるしな。


ん? どうしたの、血相変えて。え? 青空文庫
まあまあ、それはもう少し後に出てくるから。


そうなんだよ、よくわかんねえんだよ。
だから、この要望がもし20年くらい前に出されていたなら、別に反対の声も比較的大きくならなかったかもとか思うのさ。
ところがネットが普及して、おまけにWeb2.0とか言い出しちゃったのよね。


これまたえらい人が色んなところで既に指摘しているところだけれど、なんかこれから先、情報を発信する人がどんどん増えていくらしいじゃない? まあ、既に増えているけれども、もっと全体的な流れとして。
そうそう、あなたも私も、おそらくは知らん間に情報の発信元になっちゃうわけ。
今まで「受け手の立場だと著作権保護期間延長の不利益っていってもわからんなあ」とか言ってたのが、送り手になっちゃうのさ! まいっちゃうね、本当に。
そして、なんかすっごい人数の増えた送り手の中には、まず間違いなくたくさんの変わり者がいるに違いないんだ。
それは言い換えると、個人レベルの青空文庫のようなもの。ちょっと待て、じゃあ青空文庫は変わり者の集団だとでも言うのか。なんて失礼な。私はそんなこと一言も言ってませんよ?
まあそれはともかく、YouTubeだってそういったアーカイブ的な側面もあるでしょ? 私はわけあっていまだにナローバンドなのでその恩恵にはあずかれないけれども。
いわば、著作権の保護がなかった場合の利益というのを、今までに比べてどーんと増加させる可能性があるわけだ、送り手の増加っつうのは。


つまり、これから先の世の中、著作権の保護がない場合の利益がどーんと増えてしまうっていうことは、相対的に著作権の保護から受ける不利益もどーんと増加してしまうっつーことになりはしないか?
そういう風に社会が変わっていこうとしている中で、「著作権の保護期間を伸ばすと著作者が張り切るから伸ばしてくれませんか?*3」という、社会の変化を考慮に入れていない意見*4が出てきてしまったわけだ。
ちょっと単純すぎやしないか? ちょっと鈍感すぎやしないか? いくらえらい人*5の意見でも、ちょっと簡単には納得できないよな。

*1:もちろん「だから著作権の保護期間を発表後5年にしろ」とかアホなことを言っているのではないですよ。まあ、そんな勘違いをする人もいないと思いますが、一応。

*2:私の場合は主に早川書房東京創元社とサンリオに心の中で呪いの言葉を浴びせている

*3:もうひとつ「もっと文化的に、先進国である欧米と一緒にしません?」ってのもあるのだけれど、欧米と保護期間が異なることが文化的に遅れている、または問題があるということとは直結しないのは論を待たない。経済的な検討はちょっと私の身に余るのだけれど、普通に考えて映像にしろ音楽にしろ文学にしろ、トータルでみりゃ日本は輸出より輸入が多いだろうから、ちょっと納得しにくい話ではある。

*4:個人的には著作権法なんざ著作者の生活を守る法律だろってな啖呵を切りたいぐらいなんだけれど、理念的には著作権法は文化の発展に寄与するのが目的ってことになっている。であるならば、社会が著作物から受ける利益・不利益のバランスが変わってしまうような変化は検討しなければならない事項になるかと思う。著作権の保護期間延長というのは、社会の変化を検討した上でなされる主張なのであろうか?

*5:あなたにとって、例えば三田誠広氏が尊敬に値する人かどうかという問題はひとまず置いておこうよ