読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

ライトノベルも死後50年の夢を見る(か?)

書店員の異常な愛情 - 小ラノ

ガガガの方はそんなに注目したい情報も無いのですが、6月の新刊には「跳訳」という試みをした作品が入るみたいです。

跳訳”とは?

跳訳」シリーズは、伝説の名作をライトノベルとしてよみがえらせる試みです。

第一弾は海野十三の「十八時の音楽浴」をゆずはらとしゆきが大胆に翻案した『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』! 第二弾として夢野久作「人間レコード」を佐藤大監修のもとリメイクした『脳Rギュル』を 7月に刊行! そのほか小栗虫太郎や国枝四郎、蘭郁二郎などを続々とお届けする予定です。


やはり後発という事で色々と考えておられる。願わくば流通・販売方面にも知恵を絞って頂きたいトコロ。

なんでそんな渋いところを攻めるかという気はするものの、小学館がはじめるライトノベルレーベルであるところのガガガ文庫で過去の名作の翻案が展開されていくようだ。
過去の名作の翻案というのは、今までにもちょくちょくあったけれども(ちょっと前に講談社から、大沢在昌田中芳樹を執筆陣として迎えた翻案のシリーズなんかも出てましたな)、ライトノベルからこういう動きが出てくるというのはちょっと新鮮な驚きを感じる。


で、ですな。
海野十三は1949年没(海野十三 - Wikipedia

夢野久作は1936年没(夢野久作 - Wikipedia

小栗虫太郎は1946年没(小栗虫太郎 - Wikipedia

国枝四郎は1943年没(日本エンタテインメント作家生没年早見表

蘭郁二郎は1944年没(蘭郁二郎の生涯


いずれの作家も死後50年を経過し、その作品利用は広く一般に開かれたもの、パブリックドメインとなっている。
偶然かもしれないが。


今、著作権の保護期間を死後50年から死後70年に延長しようというロビー活動が盛んに行われているのは皆様ご存知のとおり。
上記の例で、挙げられている作家がいずれも死後50年を経過しているのは偶然かもしれない。
なにせ、小学館といえば押しも押されぬ、それどころかすごい力で押し返されそうな出版社である。死後50年を経過していない作品の翻案も何とかなりそうな気もする。
しかしだ、仮定してみよう。これを思いついたのが、小さい出版社だったらどうか? 小さいながらも、過去の名作を翻案し、若い世代に継承していこうという熱意を持っていたとしたら?
その場合、既にその作品がパブリックドメインとなっているか否かは、大きな意味を持つだろう。


ああ、じゃあ死後70年経過した作家の作品を翻案すればいいじゃないかという声が聞こえてきそうだ。
いやいや、テキストの入手のしにくさを侮ってはいけない。
古書店が充実している地域ならいざ知らず、87年まで新刊書店に並んでいたサンリオSF文庫*1が、わずか20年でこれだけ手に入りにくくなっているんだぜ?(参考:サンリオSF文庫の部屋
あ、よりにもよってサンリオかよとか言ってる奴いるな?
くそぅ、5000円も出して買ったのに*2


四方手を尽くせば、テキストが入手できない作品というのも、ずっと少なくなるだろう。
ただ、四方手を尽くさねばテキストが入手できない作品が語り継がれる、または再評価される可能性というのは、小さくなってしまうだろう(だから、ガガガ文庫のラインナップに蘭郁二郎が入っているのは快挙といって良いと思う)。
本好き諸氏ならみんな経験があるだろうけれど、普通に暮らしていたら手に入れにくい本というのはとても多い。
とてもとても多い。
著作権の保護期間が著作者の死後50年から死後70年に延長されるということは、単純に利用できるようになる期日が20年先延ばしになるということではない。
人の記憶はその20年の間にも薄れ続けるのであり、テキストは20年間の間にも手に入りにくくなり続けるのである*3
その20年の間に、新たに「幻の名作」となってしまう作品があるのだ。
著作権法の目的は文化の発展に寄与することだそうなんだが*4、保護期間の20年延長は本当にその目的にかなっているか?
今年亡くなったカート・ヴォネガットを70年先まで語り継いでいく自信があるか?
ワンアンドオンリーの偉大な変人、R・A・ラファティを2072年まで語り継いでいく自信はあるか?


なにはともあれ、とりあえず海野十三の翻案は買ってみよう。海野十三が美少女まみれになっていたら、それはそれで一興である。


ちなみに、海野十三「十八時の音楽浴」は同題短編集(ハヤカワ文庫JA)に収録されていたが、先ほどハヤカワ・オンラインで検索してみたところ、そもそも海野十三が一冊も出てこない。これに合わせて復活するとよいけれど。
もし復刊ならなかったら、青空文庫で読むとしようか。

*1:そういった貴重な本は、できるだけ新古書店にもって来てくれるな。買取できないことがほとんどなので、もったいないから。

*2:サンリオSF文庫って、古書で高値がついていたりするのである

*3:アーカイブを充実させることでこれはある程度カバーできるというのは延長を希望する側にも延長反対する側にも共通する認識だ。ただ、不思議なことにアーカイブを充実させるのに熱心なのはむしろ保護期間延長に反対する人々の側のように見えるのだが。それがまたいけすかない

*4:もういいかげん、そういう建前やめようよ、とも思うんだが。今の日本の著作権法は著作物事業が最大の収益を上げることを目的にしていたり、しかもそれがアメリカの意向を反映していたりする