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万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

ネット権は片翼だけのJASRACである

著作権

ネット権ってなんじゃらほい?

著作権と別の「ネット権」創設を、角川歴彦氏ら参加のフォーラムが提言

よくわからなかったので、この提言の原文を読んでみる。

【クマガイコム】GMOインターネット社長 熊谷正寿のブログです | 「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」政策提言(2008/3)について(このページの下の方のリンクから提言本文にとべます)
なるほど。
ネット権というのは、「一つのコンテンツは一つの権利処理で使えるようにシンプルにする」というところを狙ったもののようだ。
今まで、多数の権利者に許諾を得ねば使うことができなかったものを、ネット権者の許諾だけで(ネット限定で)使えるようにする、と。ほほう、結構なことじゃないですか。
ただ、気をつけなければならないのは、この構想というのは「従来の権利処理をシンプルにするためのもの」だということであって、であるから……

映像・音楽配信を許諾不要に 「ネット権」創設、有識者が提言 - ITmedia News

こんな、ミスリーディングを誘う気満々の記事見出しに踊らされてはいけない。この見出しは本当にひどいよ。
この見出しから想像するのは、許諾を得なくてもネット上に映像や音楽を使ったMADをあげていいんだ! とかそこらへんだろう。ニコニコ動画JASRACと包括契約しますよってな話も記憶に新しいところだ。
しかしながら、ネット権の狙いはそこではない。従来の権利処理をシンプルにできるように……特別法を作るという形で半ば強引に……しようというのが第一の狙いだ。
言い換えると、この「ネット法」による「ネット権」の創設というのは、コンテンツの配信商売を簡単な処理でできるようにしようという、既存のメディア企業のためのものであるということだ。
彼らは、自分たちのあずかり知らぬところで自分たちの扱った作品が利用されるのを望んではいない。これまでもそうだったし、ネット権以後でもそれは変わらない。
それが証拠に……

栗原潔のテクノロジー時評Ver2 > 「ネット法」について : ITmedia オルタナティブ・ブログ
上記ブログで栗原潔氏も指摘し、不詳、旅烏こと私id:banraidouもブックマークコメントで触れさせてもらっているけれども、この「ネット権」って許諾権なんだな。
簡単に言うと「このコンテンツが使われた時には代価を要求していいですよ」というのが報酬請求権。「この人の許可なしではコンテンツを使ってはいけませんよ」というのが許諾権だ。

ネット上のコンテンツの取り扱いについて、ユーザー側の多くの人が報酬請求権的な新たな枠組みを求めている、というのはもう周知の事実であると思う。
ニコニコ動画JASRACと包括契約を結ぶというのも、それによって音楽コンテンツ利用の報酬請求権的な利用への道が開かれるからこそ意義がある。JASRACは批判も多いけれど、本来、著作権者ひとりひとりに許諾を得なければいけないところを「お金さえいただければ使っていただいて結構ですよ」という報酬請求権的な枠組みへと変えてしまっている、そのメリットというのも、すでに多くに人が指摘しているところ。

言い換えると、ネット権によって、ユーザーはコンテンツを買いやすくはなるけれど、コンテンツを使いやすくはならないのだ。


さて、ネット権に関する提言の中で、JASRACを意識した部分が皆無かというと、そんなこともなかったりする。
例えば各著作権者はネット権者に対して報酬請求権を持つなんていうところがそうだろうし、JASRACそのものに言及して、そのような組織を一つではなく複数設けるべきだとしているところなどがそうだ(JASRACによる寡占状態への批判がでていることへの配慮だろう)。収益分配の透明性の確保については言わずもがな。
ただ、JASRACの大きな社会的メリットであるはずの、ユーザー相手の報酬請求権的な運用については、言及されているところが見つからない。

さらに言い換えようか。このネット権とは、クリエイター相手の新たなJASRACを作ることが目的であって、ユーザー相手の新たなJASRACを作ることが目的ではないのだ。半分だけ、なのである。


話はもう少しだけ続く。
この「ネット権」かなり強力な権利だが(なにせ、ネット配信に関してクリエイターよりも強力なコントロール権を得ようというのだから)、肝心の権利者はどのようにして決定されるのか。
提言にこんな個所がある。引用しよう。

ネット権の権利の具体的内容として、ネット権者は、映画の製作、レコードの録音、放送についての同意を得ている場合には、?インターネット上(のみ)でのデジタル・コンテンツの流通のため、当該デジタル・コンテンツを流通させるため複製、譲渡その他の使用を行う権利?前掲?の使用を他の者に行わせることを許諾する権利を専有する。


さて、ネット権者は誰に対して「映画の製作、レコードの録音、放送についての同意」を得ることで、ネット権者となることができるのだろうか?
これが、本来の著作権者に対してだった場合、ネット権など新たに創設する必要性は薄い。
だってさ、それって「従来の権利者とネット配信に関して信託契約を結ぶ」っていうのと何にも変わらないじゃないか(委託じゃなくて信託、ね。この場合)。
別件になるけれど

あなたが文化庁長官だったら著作権制度をどう変える?--有識者が議論:ニュース - CNET Japan

上記記事はコンテンツ政策フォーラムの様子を伝える報道記事なのだけれど、その中で文化庁の川瀬氏がこのようなことを述べたと報道されている。ていうか、これ、愚痴だと私は思うんだけど(笑)。

川瀬氏は「著作権制度を改正することでコンテンツが流通する、という根本的な誤解がある」と説明。たとえば放送番組の場合、最初から2次利用を視野に入れていない番組制作体制を引いていること(出演者本人および所属事務所の了承を取っていない、2次使用時に権利処理の難しい楽曲を積極利用している)などがあるとし、「変えるべきは法制度ではなく、制作システムや契約システムの在り方」と安易な制度改革に異論を唱えた。


これはこのまま今回のネット権構想にも当てはまる。つまり「これって契約上の問題じゃないのか?」っていうことだわな。

まとめよう。
クリエイター向けのみではなくユーザー向けにも報酬請求権的な枠組みを提供するべく、新たなJASRAC的な組織・枠組みを作ろうというのであったら、それには賛成する。
しかしながら、今回のネット権構想ではそのような意識は見られない。むしろクリエイター向けには報酬請求権を、ユーザー側には許諾権をと、配信ビジネスがやりやすいようにしようという狙いしか読みとることができない。そうであったなら、ネット権者がどのように設定されるのかといったことを考えると、現行の法制でも制作時にきちんと契約さえ交わせば済む話である可能性が極めて高い。
なら、特別法の立法など無駄なことだ*1

最後に、ブクマコメントを一部引用しよう。id:myrmecoleonさんのブクマコメント

また何を思いつきで。。。 公衆送信権を許諾権でなく報酬請求権にすればいいだけじゃないか

なんとクールな!

*1:提言にはフェアユースの規定化も盛り込まれているが、これについては別にネット法に絡めなくてもいい、というかむしろネット法と絡めずに独立して検討された方がいい事柄であるので、このエントリでは触れないことにするよぅ。