万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

新刊と新古書の併売、洋販ブックサービスへのブックオフの支援、そして新古書店側から見た風景

新文化 - 出版業界紙 - 社長室 洋販ブックサービスとブックオフと出版業界
さて、上記の大きなニュースから一夜明けた。
このニュースについて考察したエントリもいくつも上がっている。
アンテナの感度が低いもので、数えるほどしか関連エントリを読めていないが、多くの耳目を集めているものはこの二つになるだろうか。

洋販の倒産 - 本屋のほんね

これは新刊書店の側から見た分析と言えるだろう。

洋販自己破産、青山ブックセンターはブックオフ傘下入りか〜出版敗戦本格化 - 【海難記】 Wrecked on the Sea (2008-08-01)

そして仲俣氏のこれは出版業界の側から見た分析といえるだろうか。
鋭いと思う所、自分が見逃していたところも多く大いに参考になるのだが、違和感を感じるところも多い。それはやはり、私が新古書店の側からこの問題を見ているからだろう。
どんなところに違和感を感じるのかから、書いていこうと思う。


まず「本屋のほんね」のid:chakichakiさんの上記エントリから引用しよう。

ブックオフがABCの支援をする狙いは2つあると思われる。



1つ目は佐藤社長が公言している通りで、ブックオフのノウハウにこれまで無視してきたマーチャンダイズという考え方を導入したいというものである。現在のブックオフ本部はMD能力がゼロである。したがって、膨らんでしまった在庫を店舗や本部のMD提案で売り切っていくというノウハウが無い。要は何千冊と持ち込まれてしまい、105円棚でも動かなくなってしまった「五体不満足」やシドニィ・シェルダンは、今のブックオフは結局廃棄するしかない現状なのだが、MD提案力を身につければ、そうした在庫を何とかできると考えているのだ。ABCに人を投入して「提案して売る」ノウハウを三年計画ぐらいで回収するつもりなのだろう。伸び悩むブックオフの既存店を救う柱の一つとして位置づけているに違いない。

2つ目は、ブックオフ側からの出版業界とのコネクションを強化したい、つまり出版社と仲良くなりたいという意図だ。出版業界のブックオフへの嫌悪感は異常ともいえるもので、すでに感情論の話になってしまっている。例の一億円寄付の話もそうであるが、ブックオフ側としては歩み寄りたいのに、出版社側ではシャットアウトしているという現状に、ブックオフは困っているのだ。ブックオフとしては、出版社に対して、返品で戻ってきてしまった倉庫の死に在庫を断裁処分するぐらいなら、買い取るので新古本としてブックオフの流通網にのせませんか?という提案をしたいはずなのだが、現状では出版社側がなかなか交渉テーブルについてくれないという歯がゆさがあるのだろう。実際はゴマブックスなど、そうしたスキームにのってきている出版社もあるのだが、今回のABCの件を突破口にしてそうした出版社を増やしたいと考えているのだと思う。

2つ目の点に関してはほぼ全面的に同意する。違和感を感じるのは1つ目に上げられた理由だ。
ブックオフは確かにMD能力において劣っている。これは新刊書店と比較した話ばかりではなく、同業他社と比較しても劣っている。

ブックオフ・グループ2008年3月期決算資料

この資料、読んでみていろいろ発見があったのだが(ちなみに、同じく洋販倒産に関するエントリであるところのブックオフが洋販を支援する2つの理由 - 60坪書店日記経由でこの資料を読むことができた。ありがとうございます)、たとえば今頃になってやっとゲームに注力しているあたり、今まであまりにもおざなりだったととしか言いようがない。MDのノウハウというのは、確かにブックオフが欲しがるものの一つだろう。
ただ、それがデッドストックの解消と結び付けられて論じられるところに、猛烈な違和感を感じる。
考えても見てほしい。大半の商品が返品可能である委託販売制と、何年たっても販売価格が変わらない再販制度のもとで育まれてきたノウハウが、デッドストックの解消に役立つなんて、本当だろうか?
以前にも書いたことがあるが、新刊書店における在庫の品ぞろえと新古書店におけるそれとは決定的な差異がある。新古書店での在庫のラインナップというのは、基本的にお客さんが自主的に持ってきてくれたものだ。買取告知等である程度誘導はできるものの*1、基本的に、狙って特定の在庫を確保することはできないのである。
つまり、新古書店における(販売面での)提案とは、今ある在庫をいかに見せるか、という点に尽きる。
しかもだ、ちょっと洒落たような本はそもそもそんなにたくさん買取に来るものでもない。言い換えると、ちょっと素敵な本はほっといても在庫を圧迫する要因になどならない。引用内でシドニー・シェルダン五体不満足が挙げられているが、新古書店での在庫対策とは、まさにそういったありふれて市場価格が下がってしまった本を如何に減らしていくか、なのである。
新刊書店が本当に三毛猫ホームズやダニエル・スティールを売りさばくノウハウなど持っているのだろうか? 私にはむしろ、それは新刊書店が最も苦手としている問題であるように思えてならない。買切であったハリー・ポッターの過剰在庫が新刊書店で問題化したのを、ブックオフの首脳陣は忘れてしまったとでも言うのだろうか? まさか!


次は仲俣氏の海難記のエントリについて違和感を感じたところだが(文章が思ったより長くなってしまったので、もう一度リンクを張っておこう 洋販自己破産、青山ブックセンターはブックオフ傘下入りか〜出版敗戦本格化 - 【海難記】 Wrecked on the Sea (2008-08-01))。いや、これが何とも申し訳のないことなのであるが、本文ではなくて註の部分なのである。「註4」の部分を引用しよう。

新文化」の取材に対し、ブックオフの広報は「青山ブックセンター(ABC)のマーチャンダイジングを学び、ブックオフに活用したいというのが本音。ABCで中古品を扱うこともない」と語っている。http://www.shinbunka.co.jp/ 大都市の中心部に出店して違和感のない、洗練された雰囲気の大型リサイクル書店という業態でも考えているのだろうか。でも、そういう店ができたら、やはり青山ブックセンター本体と競合するだろう。暴論と思われるかもしれないが、私はこの際思いきって、新刊・古書・洋書のハイブリッド書店のモデルケースを、「青山ブックセンター」のブランドを使ってやってみてほしい。ディスクユニオンなど音楽の小売りビジネスではすでに行われているのだから、そのことでブランド価値が落ちたりはしないと思う。むしろブックオフには本は売りたくないが、青山ブックセンターに売るならまあいいか、と考えるタイプのお客さんはいるはずだ。そのときに必要なのは、こうしたハイブリッド書店で古書を適切な価格で買い取れる、古書ビジネスのプロではないか。小田光雄の指摘が正しいなら、その本質はフランチャイズビジネスであるブックオフに欠けているのは、本部のマーチャンダイジングの能力というより、古書店としての基本的な能力(本についての商品知識)なのだ。買い取るべきでない商品を買い取らず、買い取るべき商品は適正価格で買い取り、適正価格で販売するという、大手中古レコード屋チェーン店が普通にやっている程度のノウハウを身につけるほうが先だろう。

『むしろブックオフには本は売りたくないが、青山ブックセンターに売るならまあいいか、と考えるタイプのお客さんはいるはずだ』この部分に引っ掛からない新古書店員はまずおるまい。確かにそういうお客さんは存在するだろうが、そんなに多いのだろうか。もしそういうお客さんの割合が店舗の売上に明らかないい影響を与えるほど多いのであれば、そもそも今までブックオフが成長を続けられてきたことが奇跡としか思えない。むしろ、そういったお客さんが決して多数派ではないからこそ、新古書店というビジネスは成長してきたのではないか?
さてもうひとつ。「買い取るべきでない商品を買い取らず」という部分。実はこれ、「あー、いいなー。やってみたいねー」と思う新古書店員は多いのではないかと思う。で、考えた挙句、導入をやめるだろう。私の知る限り、買取のシステムに特定タイトルの買い取り拒否を取り込んだ新古書店は存在しない。なぜか? それは目先の在庫解消には効果があっても、中・長期的な顧客の減少を招くという考えが根底にあるからである。確かに、この考えはきちんと検証されたものであるとは言い難い。ただ逆の事例を私たちは、今までのブックオフでまさに見てきているのだ。タイトルによる買取拒否をしないことが、今までのブックオフの顧客拡大の一因であることは、私には否定しがたく思えるのである*2


さて、ではブックオフは在庫問題にどのように取り組んでいるのか。発見するところが多かったと書いた、ブックオフの資料に戻ろう。

ブックオフ・グループ2008年3月期決算資料

この資料によると(個人的には「今更始めたのか!」という感が拭えないが)、過剰在庫の他店への移動によってバランスを取り、在庫問題の解決を図っていることがわかる。さらに(資料を信じるなら、だが(笑))これによって在庫問題はある程度解決できてしまっている。方法としては別段、画期的なものでも何でもない。チェーンストアであればどこでもやっている方法をようやく始めたということに過ぎない。ただ、こういった典型的なチェーンストア的手段をやっていそうな「書店」として真っ先に思い浮かぶのがコンビニとCCCというのが今の書店の現状でもあると思う。誤解を恐れずに言うならば、きちんとチェーンストアを構築している、もしくはしようとしている新刊書店など、日本ではほとんどないのではなかろうか?


さて、さらに資料を読み進めていく。するとブックオフの今後の出店戦略に触れられているのだが、「中古劇場」と「大型店」の二つが軸とされていることがわかる。
「大型店」はわかる。「中古劇場」ってなんだ? 読んでみると、各種中古商材を扱う中小規模の店舗を一か所に集約させよう、というコンセプトであるようだ。出店ペースは大型店に比べこの複合店の方が早く、実際資料内でも大型店は「チャレンジングな出店」と位置付けられている。つまり、大型店についてはブックオフも未だ実験中であるのだ。


さらに資料内では、大型店舗に注力すべき理由として、利益の上位30店舗が全体の利益の45%をたたき出していることが挙げられている。そしてその30店舗のうち東京・神奈川・千葉にあるのが21店舗、駅前立地である店舗が19店舗、と。
これをお読みの皆さんは「ああ、なるほど」と納得するだろうか?
私はこれは極めて異常な状況だと思う。いくらなんでも歪にすぎる。グラフにおける店舗数表記から推測するに、おそらくFC店舗は除外しているものと思われるが、いや、それでも!
みなさん、自分がプロジェクトのメンバーにでもなったつもりで考えていただきたい。既存店を強化し企業の体力を上積みしようとする場合、あなたは上位30店舗をさらに増強しようとするだろうか。それとも、上位店舗ではない多くの店舗の底上げを図ろうとするだろうか。
普通は後者であると思う(経営のスリム化でもしようというのでない限りは)。


海難記で仲俣氏が「それら*3がブックオフの店舗とどのような関係になるのか、はたして新古書と新刊のハイブリッド書店のようなものが生まれるのか(可能性は限りなく低いだろうが)、予断を許さない。」と書いている。私はブックオフはそれを目指していると思うし、その可能性をおそらく仲俣氏より高めに見積もっているに違いないけれども、現状では可能性が低いという点には全く同意する。
新刊書店側から見た要因や出版する側から見た要因は私にはよくわからない。新古書店側から見ると二つ、要因が挙げられる。
ひとつが取次の頑迷さ。もうひとつが人材育成の困難さである。
新刊の側から見た新古書店へのネガティブなイメージは非常に根強い。私自身の経験談だが、こんな話がある。
私は新古書店でずっと働いており、今現在は新刊書店員なわけであるが、決して会社を辞めて転職したわけではない。プロフィール欄にも書いてあるけれどあくまで人事異動。つまり、私の勤めている会社も、他の同業他社と同じく、ハイブリッドを夢見る会社なのである。もちろん、新刊書と新古書の併売には至っていない。
出版社が倒産したとする。というか、実際倒産している。倒産した出版社の在庫が余る。値引き販売するがなかなか減っていかない。
うちの会社は新刊書店以外にも新古書店の店舗を持っている(というか、そっちの方がすっと数は多い)。なんとかそちらでも販売し数を減らすことはできないだろうか? 対象はあくまで倒産した版元の(しかも倒産した版元全般ではなく特に在庫が多い特定の版元の)在庫だ。もちろん、支払いは済んでいる。誰かに悪影響を与えるだろうか? 著者にも、既にない版元にも、取次にも損害を与えるケースだとは到底思えない。しかも自社内での在庫移動である。他社への売却ですらないのだ。
何度打診しても、取次は首を横に振り続ける。そこには合理的な理由など存在しない。
新古書店が門前払いを食らい続けている間に、新刊書店の側からの古書へのアプローチが増加し、話題になり始めている。
本を売るなら新刊書店!? 出版不況…古書販売に力 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
正直、腹立たしいことこの上ない。出版業界には様々な複雑怪奇なルール・慣習があるが、フェアでないことに慣れ切ってしまっているのだろうか?


もうひとつが人材育成の困難さである。実際に仕事をしてみて痛感しているところだが、新古書店の業務と新刊書店の業務では、ノウハウが重なる部分が非常に少ない。まるで別物の仕事と考えた方がいいくらいだ。
ことあるたびに、会社の上の方から新刊書店のノウハウをなんとか新古書店にフィードバックできないかと意見を求められたり、プロジェクト組まされたりしているのだが、本当、四苦八苦である。いや、本当に、お互いにとってお互いの専門知識が役に立たないんだよ! 売れ筋商品すら重複しないんだ!*4
つまり、新刊書店員が新古書店員に、新古書店員が新刊書店員にというのは、世間で思われているような互換性の高いものではない。同じ「ゲーム」だからってDSとPSP間違えるようなもんだ。よって人材育成にはそれなりに時間もコストもかかる。どんどん出店したくてもそうそうハイペースで出店できるものでもないのだ。


ひとつ前のエントリでも書いたとおり、私はブックオフが青山ブックセンターを核にしてハイブリッド書店を展開しようとしているという意見に否定的なのだが、その理由の一つがこの「人材育成」の問題だ。ハコ作ればいいってもんでもないのである。ブックマークコメントでid:rajendraさんも人材について指摘していたが、多くの人の反応を見ているとこれを案外見過ごしているように思える。
前述したとおり、大型店についてはブックオフ自身がチャレンジングな出店であると位置付けている。つまり、まだノウハウを確立できているわけではない。出店ペース的にも今までのノウハウを流用しやすい様々な中古販売店の複合である「中古劇場」をより早いペースで出店している状態だ。
さらに、ブックオフにとってハイブリッド書店というのが、新たな方法を要求される、さらにチャレンジングなものになるであろうことは想像に難くない(何しろ、下手をしたら「普通に新古書店やってた方が順調に利益が上がるじゃん!」なんてなことにもなりかねないのだ!)。
ABCのノウハウは大型書店のそれであろう。ハイブリッド書店を志向するにしても、未だ「チャレンジング」な段階である大型店と、さらに未知の領域である大型書店をいきなり重ね合わせようとするだろうか?
それとも、大型店ではない店で導入し、新たなノウハウの蓄積を重ね、合わせて「上位30店舗以外」の底上げを合わせて狙っていくであろうか?
私には後者の方が賢明な選択であるように思えるし、新文化が報じているブックオフの広報さんの発言「ABCで中古品を扱うこともない。書店の運営はお任せする」というのは、そういったことを反映しているのだと思う。

長くなったがこのエントリはこれでおしまい。

*1:余談ではあるが同業他社から見て、ブックオフはここは非常に弱い。これもまたあまりにもMDをなおざりにしてきたことの反映であろう

*2:ただ、その後に続く「買い取るべき商品は適正価格で買い取り」という部分には全面的に同意する。前述したように、この部分がブックオフは同業他社に比べて徹底的に弱いのである

*3:洋販ブックサービスが展開している青山ブックセンターと、同じく新刊書店である流水書房を指す

*4:今人気のコミックやドラマ化したりメディアで話題になったりする本は新刊書店・新古書店の両方で売れるだろうという意見があるかもしれない。それはその通り。ただ、そんなわかりやすい情報はわざわざ新刊書店のノウハウが云々とか言わなくても容易に入手できる