万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

勝手にSFだけでハヤカワ文庫100冊 その2 赤コーナーより黄金時代の入場です!(5〜14)

英米のSFを語るときに、1950年代のことを黄金時代などと言ったりすることがある。
ようするに定番中の定番。鉄板中の鉄板。ミステリで言うならクリスティやらクイーンやら。歴史小説で言うなら司馬遼太郎やら藤沢周平やら。それくらいの作品が発表されたり、それくらいの作家が活躍したりした時期だ、くらいの認識でまあ問題ない。

5・「楽園の泉」アーサー・C・クラーク
6・「2001年宇宙の旅アーサー・C・クラーク
7・「空想自然科学入門」アイザック・アシモフ
8・「われはロボット」アイザック・アシモフ
9・「愛に時間を」ロバート・A・ハインライン
10・「地球人のお荷物」アンダースン&ディクスン
11・「恋人たち」フィリップ・ホセ・ファーマー
12・「ジョナサンと宇宙クジラ」ロバート・F・ヤング
13・「華氏四五一度」レイ・ブラッドベリ
14・「火星年代記レイ・ブラッドベリ

クラークはぶっちゃけた話、なにを選んでもいいような気がする。代わりに「幼年期の終わり」でも「渇きの海」でも「地球光」でも「地球帝国」でも「宇宙のランデブー」でも「都市と星」でも、数多い短編集を挙げてもいい。
派手さとはまるで無縁なこの巨匠の武器は科学的な視線と哲学的な視線を詩情に変換してしまえるところだ。淡々として抑制の利いた筆致の文章で、テクノロジー色が色濃いストーリーを読み進めていたはずだというのに、読後に遠い眼をしている自分に気がつくのである。
科学的な要素を重要視したSFのことをハードSFということがあるけれど、読後に遠い目をすることができるハードSFは一生の宝物になる。そして、そんな作品を量産してしまった人物なのだ、このクラーク翁って人は。

実はアシモフのSF作品ってあまり読んでいなかったりする。わはは。
それなのに、「空想自然科学入門」に始まる科学エッセイシリーズは一時期憑かれるように読んでいたり。
なんといってもアシモフ博士の尊大で愛嬌たっぷりな語り口が! ああ、もう、それを読めるだけで幸せというか!
見逃してはならないのは、科学について語る際に、アシモフがその歴史的な経緯を重視していることだ。これはいまだ未読の(そして「さすがに読んでおきたいなぁ」とこないだ購入したファウンデーションシリーズともおそらく通ずるであろう)独特の感覚ということができるかと思う。科学エッセイにおける歴史的なアプローチというと、スティーブン・J・グールドというこれまた巨人がいるが、アシモフのそれはもうちょっと敷居が低い。


ハインラインは……えっと、タイトルがいいですよね、「愛に時間を」って。
……白状すると、敬遠している作家の1人。
いやあ、いつかは読まなければと思ってはいるんだ。
夏への扉」とか「ラモックス」とか読んではいるんだ。
これはきっと「ハインラインは良くも悪くもアメリカ的な作家だ」という先入観故なんだろうけれど。
多くのファンを持ち、日本のSF作家にも大きな影響を与えていて、その功績の偉大さを知ってはいるんだ。
で、読んでみてつまらないかというと、面白いんだよ。
……やっぱし、いつか読まなきゃだよなぁ。


……代わりにシマックの「都市」「中継ステーション」とか、シェクリイの「人間の手がまだ触れない」とか入れた方がよかったかなぁ……



レイ・ブラッドベリも似たような感じであまり読んでいない作家の1人。なんつーか、どうせ感動するのが分かっているんだからわざわざ読まなくてもとか思いつつ、読んでみるとしっかり感動していたりする。
火星年代記」はある意味通過儀礼的な作品として、「華氏四五一度」ですよ。「華氏四五一度」最近だとアニメ版の図書館戦争にもちらっと登場してましたな。
「華氏四五一度」の何が恐ろしかったって、別に圧政者が登場して、あの焚書坑儒的な社会が生まれたのではないとされているところ。
本が何となく大衆に敬遠され、それがどんどん進んでいって、やがてはあのディストピアにたどり着いたという。
そういう目で火星年代記のことを思い出してみると……うーむ。
センチメンタリズムのイメージが強いけれど、案外その裏に潜む視線はしたたかなのではないかという気がしてくるじゃないか。


ポール・アンダースンも大物の1人。で、なんで取り上げるのが「地球人のお荷物」なのか。無難に「タイムパトロール」とか「折れた魔剣」とか「百万年の船」あたり挙げておけよ、JK。
いや、面白い作品だし、いいじゃないか! ハヤカワ文庫のアンダースン作品では、このシリーズが一番好きなんだよ! テディベアみたいなホーカ人たちかわいいじゃないか! 「あまのよしたか」氏によるカバーがかわいいじゃないか! かわいいは正義じゃないのか!?
とか言いつつ、「『タウゼロ』がハヤカワ文庫だったら、そっちを挙げてたわな」とか思っている俺がいる。「地球人のお荷物」はとにかくかわいくて、「タウゼロ」はとにかくすごい。



「恋人たち」と「ジョナサンと宇宙クジラ」は、いわゆる巨匠扱いの作家以外にも読むべき作品が生み出されていたんだよということで。前者は当時は「性」を扱ったタブー・ブレイキングな作品として話題になったそうだけれど、今読んでみると実はベタ甘ラブコメとして読める良質なエンターテイメント。後者は問答無用でベタ甘、ただしちょっとさみしくなったりもするエンターテイメントとして。特に後者は定期的に重版・復刊される、ファンの多い作品。