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万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

文化庁のアンケート結果はまだでてないから、元になった調査を読んでみよう!(1)

ご存知の方はご存知の通り、文化庁がアンケートを行っております。

「著作物の利用についてのアンケート調査」

読んでいただくとわかるように、全国87か所からランダムに選ばれた人を対象としたものの他に、先日まで募集されていたパブリックコメントに意見を送った人へもネット上でのアンケートという形で同様のものが実施されます(というか、私のところにもメールできまして。回答しました)。
このアンケートはどのようなものかというと、Copy & Copyright diaryさんが簡単に紹介されています。
文化庁のアンケートの概要 - Copy & Copyright Diary

さらに、この調査は元になった調査があるそうで、その調査についてはこちらの本で読むことができます。

チャレンジする東大法科大学院生―社会科学としての家族法・知的財産法の探究

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文化庁のアンケートでも、大半の質問項目がこの調査より流用されています。
文化庁のアンケート結果の報告書公開は三月末を目途としているとのことですので、同じ質問項目を使っていてもそれをどう分析するのか、どう解釈するのかは現時点ではわかりません。
だもんでとりあえず、元々の調査の方を読んでみました。

最初に感想書いておきますと、この調査では最後に著作権行政への提言がなされているのですが、提言までもっていくにはちょっと論拠が弱いかな、と思います。


以下、気になった点を個別に書き出していきます。

サンプリング

関東及び山梨県の20地点から各20人ずつ、計400人を対象としてこのアンケートは実施されているのですが、このような記述がありました。引用します。

今回の調査目的から考えて、調査の母集団は日本国民全体であり、調査のサンプルは、これらを偏りなく代表できるものであることが望ましい。しかし、各種資源の制約により、これを忠実に行うことは難しい。そこで、著作物の利用の頻度や用途につき、全体的な平均像*1に近い構成になるよう、調査対象者を選出した。

ひっかかったのは、この「全体的な平均像」ってなんぞや、というところです。この「平均像」というのは、どのような調査によって明らかになったものであるのか。残念ながらこの調査では示されていません。
言い変えると、調査対象者を選出するにあたってよりどころとなっている「平均的な全体像」が妥当なものであるかどうか。そこがちょっと弱いわけです。
したがって、この調査の結果や分析を、筆者らが母集団と設定している「日本国民全体」に拡大して解釈することはちょっとできないわけです。この調査結果はあくまで「今回のアンケートに答えてくれた人」の中でのみ通用します。
もっとも、文化庁のアンケートではこの点は改善されているようです。ただし、質問紙を家に置いてくる「留め置き法」とともに、今回はパブリックコメントを送った人のみを対象としたネット上でのアンケートも実施されています。これがもし「インターネットユーザー」とか「パブリックコメント回答者全員」とか、そういった風に拡大されるようなことがあったならば、それにもやはり無理があることになります。

3つのグループ分け――「ガーターベルト」「ニーソ」「ルーズ」

さて、この調査ではまず、著作権の利用における様々なケースを挙げ、それが非難されるべきか否かを評定してもらうことで「著作権意識」を調べています(先ほどもリンクさせていただいた文化庁のアンケートの概要 - Copy & Copyright Diaryが詳しいです)。これについてはあとでちょっと触れますが、とりあえず飛ばします。で、ここまでの調査結果に基づいて、クラスター分析って奴で全体を大きく3つのグループに分けています。
グループ1は、全体の平均よりも「非難すべき」と回答することが多かったグループ(129名。全体の32.3%)。グループ2はほぼ全体平均と同じ傾向を示すグループ(175名。全体の32.3%)。グループ3は全体の平均よりも「非難すべきでない」と答えることが多かったグループです(95名。全体の23.8%)。
筆者たちはグループ1を「厳格型」。グループ2を「事案型」。グループ3を「ルーズ型」と呼んでいます。この命名は、まあ、とくにこれといった決まりもないので、別に「ガーターベルト型」「ニーソ型」「ルーズ型」でもいいわけです。まあ、確実に怒られますが。
私自身はガーターベルトとニーソ、どちらを選ぶなんていう非情な選択はできません。
さて、「ルーズ型」に関して以下のような記述があります。引用しましょう。

一般論として著作権違反に寛容なこと自体に問題はない。これは、著作権の有効利用という観点からみれば積極的な立場ともいえる。しかし、図17*2からわかるように、このグループには「著作権侵害に過度に寛容」という意味でのルーズなものが相当数含まれている。たとえば、Q13の高価な予備校テキストの複製についても1/3以上が、「非難されるべきではない」あるいは「どちらかというと非難されるべきではない」と答えている(グループ1、グループ2ではいずれも5%程度であり、グループ3との間に際立った差がある)。

Q13とは、具体的にはこのような内容です。

Q13.大学生のAさんは、公務員試験を受験しようとしています。B予備校のテキストが良いと聞きましたが、これを入手するにはB予備校の講習を受講することが必要であり、受講には5万円必要だということがわかりました。そこで、同じように受験を考えている同級生4人と、費用を頭割りにすることにしました。Aさんは、自分が講習を受講し、その講習のテキストを4部コピーして彼らに手渡して、各人から1万円を受取りました。

この行為が非難されるべきか非難されるべきでないかを5段階で評価するわけです。
正直ね、これ、答えるとき悩みましたよ、私。
著作権意識を図るそれぞれの質問について、筆者たちは「営利」「非営利」の別や提供する相手(「友人」「自己」「公衆」など)、実際になされた行為(「上映」「複製」「販売」「アップロード」など)を整理しているのですが、このQ13のケースに関しては行われた行為は「複製」(要は複製権の侵害ということですね)、非営利ではなく営利性が強いとしています。
ただ、これを「高価な商品に対する複製権の侵害」とみることももちろんできるのですが、「高価な商品の共同購入」という見方だってできるわけです。そういった場合、このケースの営利性が強いと言えるのか。微妙なところだと思います(この一連の質問では、「現行の著作権法に照らし合わせて非難されるべきか否か」ではなく「あなたの常識に照らし合わせて」非難されるべきか否かを回答してくれってことになってます)。
つまり、筆者たちは「複製権の侵害で営利性も強いケース」としてQ13を設定していると考えられるのですが、そうじゃない解釈が比較的しやすいケースであるため、回答者たちは「複製権の侵害で営利性も強いケース」に対してイエスと言ったりノーと言ったりしているとは限らない、いろんな解釈のものがごちゃまぜになっている危険性が高い質問になっちゃってるんですよね。
この調査、後のほうで因子分析ってのもやってるんですが、実際、このQ13に関しては因子分析でもはっきりとした結果が出ていません。まずます、「筆者たちが測定しようとしたものが測定できていないのではないか」という気がしてきます。
そんな不安感漂うQ13を引き合いに出して「このグループには「著作権侵害に過度に寛容」という意味でのルーズなものが相当数含まれている」と言ってしまっているのはまずいんじゃないかな、と思います。

各グループの特徴と統計と千早とあずささん

次に、各グループにどのような特徴があるか、この調査では記述していきます。
いきなりまとめのところから引用しちゃいましょう。

グループ1(厳格型)は、年齢が高く、無職の層が多く、また、法に対する姿勢は肯定的な層であった。著作権意識に対しては、全般に慎重厳格に対応するグループであったが、そうした対応の背景にあるものとして、こうした属性、意識があることは、整合的に理解できる。

グループ2(事案型)は、学歴、収入、生活満足度が高く、年齢としては中年から若年の分布の多い層であった。著作権意識に対しては、事案の悪質度合いに的確に対応した回答をしていたが、教育の程度が高く、ゆえに、柔軟に自分の頭で考えて、判断を下せる、という層なのではないかと思われる。

グループ3(ルーズ型)は、まず年齢層が若年層であり、学歴、収入は高くに分布しておらず、生活への満足度は高くない、そうした層であった。法に対する意識も、厳格ではなく、比較的ルーズであった。著作権意識について、ルーズに回答する傾向があったが、そうした回答のもたらす背景として、説得力のある分析結果となった。

ちなみにこのすぐ後にこう続きます。

著作物に対してだけではなく、そもそも法一般に対して肯定的でない態度を有しており、また生活への満足度が低いため、社会に対して素直になれない*3ことが考えられる。

ここは笑うところだと思います。


さて、色々と特徴が記されていますが、まとめではなく分析部分を読んでみますと、統計による有意差が出たのはわずか2つです。
ひとつは年齢(分散分析の結果、各グループの間で1%水準で有意差がでたそうです。つまり、この結果がたまたまである危険性は1%以下ですよ、ということで)。
もうひとつは著作権侵害者に課される不利益性の項目です。すこしわかりにくいので説明しますと、これは「他人の著作権を侵害した場合、侵害した人にはどのような不利益があると思いますか」という質問に対して「1:損害賠償を請求されることもありうるし、犯罪になることもありうる  2:損害賠償を請求されることはありうるが、犯罪になることはない  3:損害賠償を請求されることも、犯罪になることもない  4:わからない」の4つのなかから一つを選んで回答する、その回答傾向に差があったということです。これについても、χ2乗検定の結果グループごとの分布が1%水準で有意に異なったそうです*4
これ以外の項目については、検定についての記述がありません。統計的な検定を施していないか、検定はしたけれど有意差が出なかったのかのいずれかでしょう。


さて、ちょっと話が逸れますが、そもそもなぜ検定をするのでしょうか。
まあ、私も10年以上統計なんてやっていないんで素人みたいなもんですが、ちょっと説明することにチャレンジしてみましょう。
仮に、全国の男性をランダムにサンプリングして、アイドルマスターというゲームの登場人物である如月千早三浦あずさ、どちらがより自分の嫁であるかの嫁度数を調べたとします。
参考
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で、千早の嫁度数が72。あずささんの嫁度数が91だったとします。
これを「72と91!? こんなに違うじゃないか!」と見るか、それとも「72と91!! これしか違わない! 偶然だよ! 偶然!」と見るか。
グラフにしてみてもやはり両者、平行線のままです。
そこで統計使ってみるわけですよ。


話を戻します。元々の調査では年齢と著作権侵害者に課される不利益性のふたつの項目以外は統計についての言及がありませんでした。つまり、本当に偶然じゃなくて差があるものなのかはっきりしません。
はっきりしない項目を伏字にすると、各グループの特徴説明はこんな感じになります。

グループ1(厳格型)は、年齢が高く、xxxxxxx、また、xxxxxxxxxxxな層であった。著作権意識に対しては、全般に慎重厳格に対応するグループであったが、そうした対応の背景にあるものとして、こうした属性、意識があることは、整合的に理解できる。

グループ2(事案型)は、xx、xx、xxxxxxxx、年齢としては中年から若年の分布の多い層であった。著作権意識に対しては、事案の悪質度合いに的確に対応した回答をしていたが、xxxxxxx、ゆえに、柔軟に自分の頭で考えて、判断を下せる、という層なのではないかと思われる。

グループ3(ルーズ型)は、まず年齢層が若年層であり、xx、xxxxxxxxx、xxxxxxxxxxx、そうした層であった。xxxxxxxx、xxxxxxx、xxxxxxxであった。著作権意識について、ルーズに回答する傾向があったが、そうした回答のもたらす背景として、説得力のある分析結果となった。


なんだかよくわからなくなりましたね。
印象としては、この部分がこの調査の一番の課題ではないかと思います。次に追試やさらなる研究をする際には、各グループの特徴をもっと適切に説明できるような質問設定が期待されます。
また、これも補足しておきますと、今回の文化庁のアンケートではサンプル数がこの調査よりも増えます。サンプル数が増えることにより、元々の調査では出なかった有意差が検出されるということも十分あり得ます。その場合は、各グループの特徴説明の説得力が増す結果となるわけです。


さて、疲れたので今日はここまでにしようと思います。

*1:強調はこのブログの管理人である私によります

*2:グループ3「ルーズ型」の、著作権意識を図る質問への回答状況を示したグラフです。スキャナ持ってないのでアップできません。すいません。

*3:強調はこのブログの管理人の私によります

*4:ただ、1を選んだ割合が最も少なかったグループ1でも7割弱が1を選んで回答していることは一応補足しておきます