万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

「ベル・カーブ」は未読ですが、なんか書いた方がいいんだろうなぁ、一応/つーか、もっと詳しい人がきちんとやってくれ(笑)/gの呪縛/テスト・ザ・ネイション見て喜んでる場合じゃないんですよ(笑)

On Off and Beyond: 書評:Real Education-人口の半分は平均以下

On Off and Beyond: Real Education続きーさらに身も蓋もない話

On Off and Beyond: ベルカーブはトンデモ本ではありません


うーん。
話題の本は翻訳されていませんが、その著者を徹底的に批判した本なら翻訳されているので貼っておきますね。 - 万来堂日記2nd
こんなエントリ書いちゃったわけだから、なんか書いておいた方がいいんだろうなぁ。もっと詳しい人によるちゃんとした解説があった方がいいんだが。正直、私だと能力不足ですよ。嫌だなぁ。見るからに地雷原だものなぁ。考えまとまらないんで、だらだらと書きますよ。
The BellcurveもReal Educationも未読。うむ。



優れた人には優れた人向けのコースを、そうじゃない人にはそうじゃない人向けのコースを、って主張なわけですよね、これ。
で、そのふるいわけにIQを使おうって提案なわけでしょ? 違ったら申し訳ないが。でも、社会的に実装しようとしたらそうなる可能性が極めて高いですよね?
まあ、IQには荷が重すぎますわな。だったらそのための新たな尺度でも開発しておくれ。草葉の陰でビネーは激怒してますぜ、間違いなく。俺の始めた知能検査をこんな目的で使ってくれるなってな調子でね。無理もない。彼はこれとは全く逆の目的、教育の進み具合が遅れ気味の児童に特殊なカリキュラムを受けさせることでその遅れを取り戻そうというためにこの知能検査を開発したんだから。


上記、On Off and Beyondにはこんな記述もあるわけですが。

さらに言うと、The Bell Curve、「人種間の能力の差」の本ですらない。全然ない。人間の知能は正規分布に従い(つまり半分は平均以下=ここで言う平均は統計上の母平均)、必ず知的弱者が世の中には存在するから、彼ら彼女らが不利にならないよう、そういう人たちのためになる施策をとろう、という主旨だ。至ってまともじゃないですか?

だったら、IQ120以上のケースについて詳細に分析する意味なんてなくね?



まず、IQって20〜30とか変動するそうですし(ビネーはこれを聞いて草葉の陰で喜ぶでしょうね。特殊なカリキュラムでそれがなされる可能性もあるわけだから)、IQのように知能を単独の因子として捉えるのではなく階層的な因子として捉える見方もあるんですが、K・W・シャイエって人の研究だと、結晶性知能(まあ、経験的に得られる能力ってとこでしょうか)のピークは大体60歳くらい、流動性知能(新しいことの学習能力ってとこですかね)のピークは40歳くらいなんて話もあったり。
さらに言うと、知能には様々な要素があり、しかもそれぞれの要素はモジュール的にある程度独立している、なんていう理論もあったりするわけです。くしくもOn Off and Beyondでも言及されているガードナーの仮説ですが。
それをいったら、そもそも知能を数値化・得点化しない知能観だって全然あるわけです。
簡単に言うと、知能は複雑怪奇。IQって知能を反映しているの? ってところから未だに決着がついていない大問題であるのだけれど。
そんな中で、IQを上げることが不可能とか、IQ120で足切りとか言う主張を疑うなっていう方が無理ってもんですぜ、旦那。
しかし、「いや、知能がどうこうとかそこまで言わなくても、『IQ』がエリートになる可能性のある人材を見分ける指標になりさえすればいいのであって」というのも、考えられますな。
まあ、そうですね。しかしそれはすでに「知能検査」でも「知能指数」でもないね。別の看板にしておくれ。そうしたらみんなももっと直観的に理解しやすくなるでしょう。
「エリート指数」なんていかが?




で、山形浩生氏のコメントなども上記On Off and Beyondで紹介されているんだけれど(つーか、私のエントリについたブクマコメでもid:chiaki25 さんが紹介してくれてましたね。こちらからどうぞ)、これって「施策としてはありだ」って言ってるんじゃないのかな? 知能指数につては「正規分布する」以上のコメントってされていないですし。しかも、評価しているのは

あの本の結論は、最近世の中すべて、手続きとかが無用な知的負担をかけるような方向に動いているので、知的能力の低い人に必要以上に不利になっている、これはよろしくないのでもっと簡素化して、いろんな申請書類を無用に複雑にしないとか考えないと、知的能力による階級分化が進んじゃうぞ、というものでした。

という風に、むしろビネーの考えに沿った、足切りとは対極にある部分のように思えるのだけれど。


というかですね、本当にこういうだけの主張だったら「身も蓋もない話」であるわけがないんですよ。
そうじゃないから「身も蓋もない話」なんてエントリタイトルになったんじゃないの? と思うわけです。



上の方でIQについて、それが知能を単独の因子として捉えるやり方だと書いたけれど、この因子、g(general intelligence)って名前がついてましてね。これを始めたのはスピアマンという、因子分析そのものを開発した超大物なんですがね。
因子分析の結果でてきた代物ですから、これ、数学的な概念なわけで。
このgを知能と名づけることが妥当なのか、ていうか、数学的な概念なら同じように数学的な処理で別の結論が出てくるんじゃないか、みたいな話もありまして。それがまさに多因子的なモデルだったりするんですが。
The Bell CurveもReal Educationも、このg因子の延長線上にある……というか、g因子が何らかの心理学的・生物学的な根拠を持つっていう主張の系譜を思いっきり受け次ぐものなんだけど、これもまだ全然結論が出ていなければ定説があるわけでもない。
そんな五里霧中の中で、そんな五里霧中のものを「科学的根拠」として扱った政治的な主張だものなぁ。
これを疑わなかったら、なにを疑うんだってくらいに疑ってかかりますよ、そりゃ。



えーと、つまりですね。
主張のために科学の一側面だけを都合いいように利用するなよ、ってことなんですがね。
このブログで何度もグールドの「人間の測りまちがい」をオススメしているけれど、まあ、別に文庫本にしては高めのこの本じゃなくてもいい。まずはお近くの図書館へ。で、そこの図書館で心理学辞典を探していただいて、知能についての項目を読んでいただければ、この手のIQ盲信に対して「ん? ちょっとおかしいぞ」と思っていただけるんじゃないかと思うんだけど。
テレビでテスト・ザ・ネイション見て喜んでる場合じゃないんですよ、みなさん。海の向こうじゃよりによってIQを枕にした政治的主張がなされているわけですからね。IQってなんなのか、知ろうとしても無駄じゃございませんよ。


追記:書き忘れてた。
一応、このエントリを書くにあたって、本棚に刺さっていた「新・心理学の基礎知識」(中島義明・繁桝算男・箱田裕司編/有斐閣)を参考にしています。ブックマークとかで「知能に関する本ならこの本がいいぜ!」とか「いやこの本だろJK」とか「この本の破壊力は異常」とかあったら挙げてもらえると、私含めみんな幸せになれると思うよ!