万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

「あなたのための物語」


読み終えたばかりで、まだ興奮しており、心の整理が済んでいない。
大体こういうときは、後でまた何度も感想を上げなおすことになるんである。「Self-Reference ENGINE」の時もそうだったし、「ハーモニー」の時もそうだった。
もしかしたら私の頭が固いのかもしれないが、この作品はサイバーパンクのひとつの結論であるように思う(結論がこれひとつとは限らないのが、小説の素敵なところだが)。
テクノロジーが、人間の一番根源的な体験であるところの「死」に対して、何をなし得るのか。
テクノロジーが人間をどのように変えていくのか。
ギブスンのあの名作「冬のマーケット」を上回るビジョンがこの作品で展開されている。ギブスンは死そのものを迂回して、その先を描写してしまった。

死を前にしては(ある意味)何人たりとも平等にならざるをえない。
アウトローを登場させることが多かった過去のサイバーパンク作品とはまた違った方法だが、この作品は主人公から特権的な地位を剥奪している。

そして269ページ。
部屋で一人きりで読んでいるのに、思わず声を上げてしまった。


帯にイーガン、チャン、伊藤計劃の名前が挙がり、私も上記のようにギブスンの名前を上げ、きとWeb上の感想では様々な作家が引き合いに出されているに違いないのだが、白状すると、一番強く連想した名前はジャック・ウォマックだ。
非情さと甘美さが、美しく痛々しい形で、不可分に組み合わさっている。




やっぱりまとまらないなぁ。仕方ないか。
今のところの私の中でのこの作品の位置づけは、「ハーモニー」のさらに先の光景を、あらん限りの想像力を振り絞って描写したもの、といった感じ。
まあ、多分変わっていくと思うけれど。