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万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

35ブックスは誰の方向を向いていたのか。まあ、結果論ですけど。

35ブックス、1点平均300部弱の受注に/予定を大きく下回る - 新文化 - 出版業界紙

書店のマージン改善と返品減少を目指した出版社8社の「35ブックス」の受注状況が、1点平均300部弱(26アイテム)となっていることがこのほど分かった。8社は受注数が伸び悩んでいたため、8月末までだった注文の締切りを9月末まで延期していた。

8社共同の企画「35ブックス」の継続については、来年2月頃に8社で結果を総括し、その際に今後の方針も検討する。ただ、筑摩書房は1社でも、こうした取組みを継続していく。

35ブックスのような新たな試みって奴は、最初からうまくいく方が珍しいと思うわけで、筑摩書房の意気込みには拍手を送りたくなる。
とはいえ、この新文化の記事、決して長くはないけれど、要点をきちんと押さえてあったりするわけで、最初の試みの反省点って奴もきちんと触れられている。

今回の取組みの結果からみえたことは、中小出版社と書店の双方がウィンウィンとなる取組みの難しさ。中小出版社は復刻・重版という商品を提案してはいるものの、書店は商品としての力に不安を抱いたため受注数が伸び悩んだ。

35ブックスのラインナップについては、こちらの記事をどうぞ。
【版元8社で35ブックス】■全国書店新聞 7月11日号記事


責任販売制と言うと、小学館の「ホームメディカ」が7万部を売ったということで成功例として報道されているけれど(参考:【責任販売・委託併用第2弾】日書連)、成功したと言われるこのケースも、35ブックスと同じ問題を抱えていると思う。
それは、取り組みが、いったい誰に向けてなされているものかという問題だ。


新文化の記事の中で「商品としての力」と表現されていることを言い換えると、平積みにでもしてアピールすればきちんと売れてくれる商品であるか? POP等でアピールしたらお客さんから注文をとれる商品であるか? といった具合になるだろう。さらに言い換えると、書店を訪れるお客さんにアピールするポイントがあるかどうか、だ。もちろん、35ブックスのラインナップや家庭の医学事典の内容にケチをつける気など欠片もない。ただ、棚に1〜2冊さしておけばいいや、と判断されてしまうような本では、書店だってわざわざリスクをしょいこもうなんて思わないという、当たり前のことだ*1
35ブックスの本たちは、他の委託商品との陣取り合戦に打ち勝たなければいけないのだ。こういっちゃなんなんだが、通常の委託の本の方が売れそうであるならば、書店としてはそっちの方に力を入れるべきと判断される。
今回のつまずきから、次回に向けて生かすべき反省点をまとめると、以下の2点のようになるだろう。

・それは店頭を訪れる不特定多数のお客さんにアピールする商品であったか? 35ブックスという取り組みが発表された当初、SBMのブックマークコメントで「ラインナップが微妙……」的な反応が複数見られたように記憶しているが、「今、出版社が売りたい商品」でなく、お客さんへのマーケティングをラインナップの選定に生かしていくことができるか?

・露出は十分であったか? ベストセラーにはなりにくい本であっても潜在的な需要はあるとして、では、「その本を必要としている読者」に対して取り組みの情報がきちんと届く、そういった体制が整えられていたか? 書店にポスターやPOPやリーフレットはあったか? それらがコスト的に難しいのなら、せめて書店員がプリントアウトして利用できるようなPOPのデータが用意されていたか? 各出版社にお客さんに向けての特設ページはあったか?(つーか、今、各出版社のサイトを見にいったんだが、筑摩書房だけじゃないか、特設ページがあるのって。それとも各社、わかりにくいところにきちんとページ作ってあるの? 出版関係のニュースをチェックしているようなお客さんにしか興味ないの?)
ゲーム、音楽、DVDといった競合商品に比べて、ただでさえ事前の予約アピールが不得手な出版業界である。業界内部に向けてではなくお客さんに向けての情報の開示を甘く見ていた部分はなかったか?


しかし、まあ、これは結果論でもある。振り返ってみれば自明なことであるかのように思えてくるが、当事者にしてみれば痛い目を見るまでわからなかった、なんということは山ほどある。これもそういったことの一つだろう。
教訓を次に生かすことができるのは、取り組みを続けた人たちだけに許される特権だ。だからこそ、筑摩書房の意気込みには拍手を送りたいと思うのだ。

*1:そういった意味で考えると、小学館の取り組みとの数字的な差というのは、単純に店頭での露出の差に過ぎないのではないかという気もしてくる。「ホームメディカ」の頃には、私が勤めていた田舎の書店にもPOPやらお客さんが手に取れるリーフレットとかが来たものだった。35ブックスではどうだったのだろうか。教えてくれ、書店の中の人。ちなみに「35ブックス POP」で検索してみたが、1ページ目には東京ブックフェアで説明会やったよ、というニュースが一件引っかかったのみだった