万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

「服従実験とはなんだったのか」を読んで、そこから芋蔓的に

去年最後に読了した活字の本がこの「服従実験とは何だったのか」。服従実験、またはアイヒマン実験などとも呼ばれる権威への服従研究で有名なスタンレー・ミルグラムの伝記であります。
詳細について手軽に知りたい方はウィキペディア当該記事を。もっときっちりと知りたい方はミルグラム本人による「服従の心理」をどうぞ。

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これは最近出た山形浩生氏の翻訳による新約版。私が学生の頃に読んだのは岸田秀氏が翻訳したものだったっけか。


この伝記がね、期待していた以上に面白かったのですよ。
著者のトーマス・ブラス氏が序文で、「ユダヤ人の子供だった自分が1944年のブダペストで経験したこと」を語りだしている時点で、権威への服従の恐ろしさを少々ショッキングな形で世間に知らしめたユダヤ人心理学者ミルグラムが著者にとってのアイドルなんであろうなということは容易に想像がつくのだけれど。自分にとってのアイドルのことを書いているだけあって、ミルグラムという人物の姿が大変にいきいきとしていてねぇ*1
ミルグラム先生ってば、キツいユーモアの持ち主で、ちょくちょくドラッグやってて、おまけに結婚するまでは案外プレイボーイだったみたいだぜ(笑)。
もちろん「服従実験」についても詳しく触れられているし*2ミルグラム本人の報告ではなかなかわからない「服従実験に対する世間の様々な反応」がわかるのは面白い。
基本的にミルグラムというのは、すごいアイデアマン、というかともするとアイデアが先行する人、だったんだなぁ。
服従実験の何がすごいかというと、その結果のあまりのわかりやすさ、だろう。
いいかえると、権威への服従という厄介な代物を、非常に外部から観察しやすいものへと変換して見せた、その手際の見事さですわな(ミルグラムに限らずだけれど、心理学の有名な実験って、そこらへん本当にエレガントだよねぇ。ため息が出る)。
他にもミルグラムの際だった仕事として触れられている放置手紙調査法、都市のメンタルマップ、スモールワールド、シラノイド等々、どれも「こんなことしてみたら面白いんじゃないか」という発想の凄さが際立つもの。発想が面白く、結果が鮮やかであるがゆえに、その結果の理論化・モデル化といった面ではあまりいい結果を残しているとは言い難かったりする一面もあると思うのだけれど。でも、「シラノイドが小説の中に出てきたらどうしよう」とか考えると、ワクワクしちゃうもんなぁ。


で、新版の「服従の心理」の感想なんかをネットで眺めていたら、なんと訳者の山形氏が訳者あとがきでミルグラムの結論を若干批判的に検討しているらしい。こりゃ面白そうだね。読んでみたいな。どうしようか。


そんなわけで個人的になんだか心理学ブームが起きちゃって、村上宣寛「心理学で何がわかるか」を読んでいたのだけれど([asin:4480065059:title])、この本でもちょっとだけミルグラムの実験について触れられていて。なんと2006年に追試が45年ぶりに(!)行われたらしい。まさか色々厳しい今の時代になって出来るとは思わなかった。結果はミルグラムが得たものとほぼ同様。うわー、半世紀たっても変わってないらしいぜ、俺ら。
この追試のことが山形氏のあとがきにも盛り込まれているのか、気になっていっそう読みたくなったんだけれど、あとがきのために本を買うってのもなあ……と、悩んでいたりするのです。

*1:この伝記で初めて知ったのだけれど、スタンフォード監獄実験(!)で有名なジンバルドとミルグラムは、高校の同級生だったそうですよ。なんとも出来過ぎた話だ。

*2:とはいえ、実験そのものに興味がある人には、やはり「服従の心理」のほうがよいと思いますが