万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

家具屋に本屋を売る/読書が趣味だなんて、この変態どもめ

今から本についてなにやら書こうというのだが、いまだに明確に考えがまとまっているわけではない。
今後も、私の考えは二転三転するだろう。
また、これから書くことは多分間違えている。とても自信がない。
しかし、他人の間違いから誰かがいい考えを引き出すこともあるかもしれない。であるから、試しに書いてみよう。
簡単に言うと、家具屋に本屋を売ってはどうか、という話だ。

そもそもは「本のための綺麗で明るい場所」という記事から

そもそもはマガジン航に載ったこの記事について色々考えていたのだ。

本のための綺麗で明るい場所

この記事でボブ・スタインは、ネットの時代を迎え、読書体験というのが書籍と読者の一対一の関係ではなく、(時には著者や出版社をも含めた)読者間での相互作用といったものに変貌していくというテキスト論的な見地から、新たな「本屋」とはどうあるべきか、といったことについて考えている。
そして、最後にその新たな場所が持つべき条件を箇条書きにしているのだ、引用しよう。

では、どうしたら出版社は、まったく新しいタイプの書店/カフェを開店できるだろうか(以下はその条件である)。
・ 人々の交流を促す、快適でゆったりした椅子をたくさん備えた素晴らしいカフェ/バー/レストラン
・ 絶版本や、章ごとの出版を可能にするプリント・オン・デマンドの設備
・ 発売中の本をフロントリスト、バックリストのどちらを探すにも最適化された設備
・ 「店員お薦めの本」に読者の推薦本も加え、画面上でも、本の置かれている棚でも見られるようにすること
・ いかなるフォーマットでも即座にダウンロードできる電子書籍の登場をハードメーカーが阻害しないこと
・ 博識な人材
・ 堅牢で無料のWi-Fi設備
・ 大小さまざまな人数でグループ討議を行うために大画面モニターが簡単に使えること
・ 作家を呼んだり、土曜の朝に子どもたちが活動したり、グループ討議を行うなど、さまざまな用途に使えるスペース
・ 本の推薦が行え、あらゆる種類の社会集団がその場で形成されるような、読者/顧客による活発な電子掲示板の存在


このブログでは度々書いているけれども、私自身、これから本にまつわる小売業というのは、本にまつわるサービスを今以上に統合した方向へと変化していくのではないか、少なくともそういった店舗が出てくるのではないかと予想している。中古と新品の併売、レンタル、落ち着いた形での閲覧、オンデマンドetc。
現実にそういった店舗を作ろうとするとして、それはどんな建物になるだろうか。本を買える。売ることもできる。借りることもできる。読むだけでもOK。オンデマンド設備もある。くつろぐこともできる。討論することもできる。スタッフは博識ぞろい。「僕の考えた超本屋」だ。
ひとつだけ間違いないことがある。それはかなり大きなスペースを利用し、かなりの資金をかけないと実現できない。
そして、大きなスペースを使った商業というのは、都市圏でないと成立しにくい。
本にまつわる場所の未来が都市限定のものだとしたら、いや、あまりよい未来ではないようだ。

そもそも、私たちはどこで読書を楽しんでいたのか、この変態どもめ

ここで「むむ、これはいかん」と思い、あらためてボブ・スタインの挙げたいくつもの条件を見直してみる。すると、これらの条件のいくつかは既に実現されている、もしくは実現直前であることに気がつく。書店では実現されていない、というだけで、世の中には既に存在している、もしくは近い将来存在するだろうというものだ。


お前ら本好きはまったくもって筋金入りの変態揃いなので、将来に備えて貯金すべき金で本を買い、愛する友人や恋人と語らうべき時間、はたまた明日に備えて身体を休めるべき時間を削って本を読んでいるに違いない。この変態どもめ。
そしてお前ら本好きはこれまで変態になっていく過程で、ボブ・スタインの言うところの「場」としての読書、書籍とお前らそれぞれの一対一というだけではなく、複数の読者の相互作用という意味での読書体験の楽しさを少なからず享受していたに違いない。この変態どもめ。


でだ、私たち卑しく醜い変態が、今までどこで心地よく読書し、心地よく交流してきたか。通勤列車? 家の近くの素敵なカフェ? 落ち着いた雰囲気のレストラン? 部室? お風呂? まあ人それぞれであることは間違いないのだが、それらの施設・サービスが本を中心に構想されたものではないことに注意をすべきかもしれない。ブックカフェは素敵なんだろうが、それ以前に素敵なカフェは素敵なのである。
いいかえると、本を楽しむための環境というのは、今までも街の中、暮らしの中に分散した形で存在していた。それらを統合する方向というのは確かに可能性を感じさせるものなのだけれど、そんなものはそうそうたくさん作れるものではない。本屋から自転車で5分のところにいい喫茶店がある。それではいけないのか?

家具屋で本を売る

さて、もう3年近くも前の話になってしまうのだけれど、こんな話があった。

版元日誌‐ 書籍販売の未開拓地

そうか、本棚を売ればいいんだ - 60坪書店日記

本屋で本棚を売ったらどうかという話なんだけれど、なぜこんなことを思い出したのか考えてみるに、これもまた「本にまつわるサービスを統合する」という方向性の延長線上にあるからだ。
しかし、私の頭の中は煮詰まってしまっている。本に関するサービスの統合を進めていくと、それは店舗の大型化をまぬがれない。私は本質的に田舎者であるので、大都市でしか展開できないサービスに興味はない。ネット書店もあるし電子書籍も広がりを見せるだろうけれど、それだけでは満足できないんだろう? この変態どもめ。
しかし、本を楽しむために利用してきたサービスの多くが(上で挙げた素敵な喫茶店のように)本を中心に構想されたわけではない施設で賄われてきたわけで、これは言い換えるとと、少し変かもしれないが、いい街というのは本を楽しむにも都合がいい、ということになる。しかし、そうなると都市論とかになっちまう。
ええい、もう苦しまぎれだ。いっそのこと本棚を本屋で売るのではなく、家具屋で本を売ったらいいんじゃないか?


と、これは別段新しい発想でもないということに気がついた。まあ、家具屋はともかくとして(いや、後述するように家具屋で本を売るのもありなのだけれど)、本を中心に見るからいけなかったのかもしれない。そうではなくて、本が周辺にあるようなサービスに、本の側から進出していけばいいのではなかろうか。
今でもそういった光景はある。例えばホームセンターに花の苗を買いに行くと園芸書が置いてある。スーパーに食材を買いに行くと料理の雑誌が置いてある。駅のホームではキヨスクが文庫を置いている。
それをもう少し拡大できないだろうか? この方向性はありかな? なしかな?

棚の管理者としての委託販売

私が思い描いているのは委託販売だ。というと、今の出版社-取次-書店間の関係を連想してしまうだろうけれど、私が思っているのとは少し違う。
私の以前の勤め先には植物の種を置くための専用の什器があった。委託でやっていたので、定期的に業者さんがやってきて売れた分を補充し、季節によって商品を入れ替え、その「棚」を管理していた。そのイメージに近い。
街の様々な施設に本を売る棚を出張させようというわけだ。
もちろん、どこに設置するかは問題になるし、設置する場所によって売れる本には大きな違いが出るだろう。カフェにはカフェに置くべき本が、電気屋には電気屋にふさわしい本が、バスターミナルにはバスターミナルにふさわしい本が、服屋には服屋に、そして家具屋には家具屋にふさわしい本があるに違いない。
本屋の仕事は、その棚を置く場所にふさわしい棚割をつくり、それを維持管理していくこととなる。
つまり、その場にふさわしい棚割を作ることのできる熟練者と、それを確実に実行し維持していくことのできる熟練者、それと補充用の在庫を積んだ小回りのきくトラック、棚を新たに置かせてくれる場所を開拓する営業さん、などなどが活躍することになる。
海外に行ったことがないのでウォルマートにも行ったことがないのだけれど、これはワン・ストップ・ショッピングというコンセプトの店に本も置こうというのとは逆方向からのアプローチになる。人が集まる場所は様々であり、その場所に本の側から出向いてみよう、という発想だ。今までもあった。しかし、それを拡大していくことはできないか。そして本屋がその役割を担うことはできないか。
ただ単に思いついただけなので、こういったアプローチが商売として成立するかについては非常に自信がないのだが……え? それって「本の自動販売機」とどう違うのかって? うーん……でも自販機じゃ満足できないんだろ? この変態どもめ。