万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

本当に怖いGALLOWS BELL

いや、少し前にアップされた曲になるのですが、このGALLOWS BELLという曲、大好きでしてね。
爽やかで軽快な曲にこの歌詞が乗っかっちゃうあたり、もうたまらないのですが。
気になる歌詞はこちらからどうぞ。
作者のbuzzG氏もブログにて、自分自身歌詞をメタファーとして扱っている旨、明言されてらっしゃるわけですが、私なんざ即物的な人間なもので、書いてあることをそのまま受け取っちゃったりするものでして。
で、それを元に妄想をたくましくしちゃったりいたしますと、この曲、なんとも背筋がゾクゾクするようなサイコホラーになっちゃうわけでございますよ。
歌詞を参照してもらうためにリンクしたニコニコ大百科掲示板でも、歌詞の解釈については百家争鳴。様々な面白い解釈が出ております。
あくまでそんな解釈の中の一つとして少しでも面白がっていただければこれ幸い、でございますな。

さて、何がいけないって、主人公が絞首刑になるってのをメタファーとしてではなくそのまま捉えてしまったところが、私のいけないところでございます。作者さん自らメタファーって言ってるのにねぇ(笑)。ただまあ、第一印象を大事にしたい気持ちもあるのでどうかご勘弁いただきたく。
で、ですね、皆さんご存じのとおり、人一人殺すってのは大変なことでございますが、それでもそれで国が死刑にするかってえと、なかなかそうはいかないわけでございますよ。複数殺しているか、それとも一人をよっぽどなやり方で殺してしまったかなんだろうなぁ、と想像してしまったわけでございます。
で、歌詞によりますと、殺された女性はこの曲における主人公に向かってこう言っているわけです。引用します。

大丈夫 あなたはきっと 狂ってなんかないと思うの

これ、第三者から狂っていると言われているか、それとも本人が「もしかして自分は狂っているんじゃないか」と思っているか、どちらかじゃないと出てこない文章でございますよ。そうじゃなければ「狂っていないと言われたい」という欲求が成立しない。
つまりですね、この一文を聞いて、逆説的ですが私は「ああ、この主人公は狂気に陥っているんだ」と思ったわけです。
そうなると次の疑問がわいてきます。はたして、この語り手(この場合は「歌い手」でしょうか)は、信用できるのか?


小説ではちょくちょく「信頼できない語り手」ってやつに巡り合うことがございます。この曲を聴いてぱっと思い浮かんだのはK・W・ジーターのサイコスリラー「マンティス」なんですが。

この小説の主人公の信頼できなさってのがもう半端じゃないわけです。自分自身の記憶をこうも見事に改ざんできるものかと度肝を抜かれました。そして衝撃的なラストシーン。まさに「信頼できない語り手」を最大限利用した作品で、もう大好きなんですが。


もう「マンティス」を連想した時点で、私の中では「この曲の歌い手は信頼できない」で確定であります(いや、もちろん勝手な思い込みなんですけど)。
するとですよ、「彼女は歌詞の中にあるような言葉を本当に言ったのだろうか?」と考えてしまうわけです。
言ってはいないんじゃないかなぁ、と。
これは、実際に言った言葉ではなく、言って欲しかった言葉なのではないかなあ、と。


つまり。
自らの狂気と罪深さを痛いほど自覚している彼は、許しを欲していたんでしょう。
手に掛けた人物の言葉を、捻じ曲げてしまうほど。
引用します。

鉄格子に囲まれ 死んでる目で息をして
何千回許されたあとも こう言いました

記憶の中で彼女は何度も何度も、彼を許して死んでいきました。
しかし、記憶を捻じ曲げてまで得た「許し」では、彼にはまだ足りなかった。

この手は血でふやけて 元にはもう戻らないけれど

何千回許されても、彼の手はふやけたままなのです。彼は許されていません。もしくは、自分を許していません。
もはや彼を救うのは「死」しかなかったのでしょう。
彼もそれを自覚しているからこそ、自らを死に導く絞首台に、祝福の鐘を重ねます、メタファーとしてね。


というわけで、私にとってはGALLOWS BELLは人間の業の深いところを表現した、切なく哀しい曲、なのです。


追記:死が救い・許しとして機能してしまうような世界観から、抜け出る人もいれば抜け出ることが出来なかった人もいる。それが世の中ってやつなのでしょうかね。
抜け出た人がいるということは、もちろん抜け出た視点から作られた楽曲、というのもございます。
探せばたくさんあるのでしょうが、GAKU-MCの「屋上へと続くドア」を合わせて是非聞いてほしいですね。歌詞はこちら。アルバム「世界が明日も続くなら」に収録されています。