万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

10月19日 第80回 洛北葵寄席/鶴瓶さんって、今度の12月で還暦なのね

洛北葵寄席を見るために、北大路にある京都市文化会館へ行ってきました。以前京都に住んでいた時は結構北大路に行く機会も多かったけれど転勤してからはなかなか行く機会も少なく、少し早めに行って付近を散策するつもりだったのですが、二度寝の誘惑に勝てず、結局ほぼ開場時間ぴったりに到着。6時半開場、7時開演でした。久々にフレッシュネスバーガー、食べようと思っていたのに。


桂優々……商売根問
桂佐ん吉……せんきの虫
桂よね吉……ちりとてちん
桂米二……算段の平兵衛



優々さん、軽快なテンポで「商売根問」。主人公が失敗した後に「あーあ、楽しかった」と言うのが工夫かなと思いました。数年後に見たら、これがもっと楽しそうに見えてくるんだろうなぁ。紅雀さんの演じるアホが心底楽しそうで、周りから愛されているみたいに。数年後も大阪にいられてたらいいんだけど、転勤になってるような気もするなぁ、俺。そういえば、師匠である雀々さんが東京に拠点を移すそうですが、お弟子さんはどうなさるんでしょうね?


佐ん吉さんのせんきの虫をきくのは3回目……というか、ここ3回、佐ん吉さんの高座で連続して「せんきの虫」を見ているのでした。正直「またかぁ」と思ったけど、なんだかんだで途中から普通に楽しんでしまった。最後で、少し高さのある高座から客席に飛び降りて少しよろけ「危なっ!」、んで、思ったより高さがあったようで、高座に戻る際になかなか上がれず「しまった!」と(笑)。


よね吉さん、マクラで少し言い間違いがあったように見受けられ、そのせいでマクラのオチが予想できてしまい、少し笑いの量が少なかったのだけれどその後、「この間、名古屋でやったときは大爆笑だったんですけど、みなさん大丈夫ですか!?」というフォローを入れて笑いを起こし、カバー。ここで一旦発散させてもらって、その後「ちりとてちん」へ。こういうのも腕なんだなぁ。
基本は笑顔なんだけれど、相手を迎えるときの笑顔、楽しいときの笑顔、相手に呆れて「もう笑わなしゃあない」という感じの笑顔、悪巧みを思いついた時の悪い笑顔、よくもまあ、あんなにたくさんの笑顔があるものですね。
また、ほめ上手の金さんと嫌われ者の竹さんがうまいこと対比できるようになっていて、面白かったです。二人とも登場は似たような感じなのだけれど、途中から振る舞いがどんどんずれて行って、印象が正反対の二人になってしまう感じで。また、竹さんが一瞬、見得をはっているのを忘れて、素で結構なお酒を味わってしまい、我に返り慌てて不味そうに振る舞うところとか。爆笑させてもらった一席でした。


米二さんは「算段の平兵衛」。「算段の平兵衛」は今まで音源で聞いたことしかなく、動いているのを見るのは初めて。
犯罪者を主人公にしたコメディタッチのピカレスクものと言えるこの噺、米朝師匠も村の庄屋さんを誤って手にかけてしまうシーンは軽くしてらっしゃいましたが*1、米二さんはさらに軽くしてらっしゃいました*2。まるでスペランカーなみの脆さ(笑)。
どこだったかで、かるく「チンチンっ」とお囃子の鐘が軽く鳴って、「あれ? なんだろ? お囃子でも入るんかな?」と思ったけれど、その後特に何もなし。まあ、すぐにそんなことも忘れて没頭してしまいましたが。
切らしてしまって残るは粉ばかりになってしまった煙草を吸うところや、死体に盆踊りを躍らせるところなどの動きが面白くて、印象に残りました。他にも雨戸を開けたら目の前に死体がぶら下がっていることになっていたり、こうやって書いてしまい字面だけ追うと重そうですが、本当に軽妙なコメディタッチ。楽しい一席でした。
本来のサゲまで行かずに終わる米朝師匠と同じ形だったのですが、その時に
「実は、この後もうひとり出てくださることになっていますので、ここで失礼させていただきます」と。お、飛び入りでサプライズゲストか。誰だろ?


そして登場してきましたのが笑福亭鶴瓶さんであります。おおぅ。


笑福亭鶴瓶……錦木検校


以前、頼まれたがどうしても出れなかったことがあって、いつか埋め合わせをすると約束していたのが今日になったとのこと。電話で連絡を取りながら、6時半発の新幹線で広島から駆け付けたとのことで、なるほど、先ほどの「チンチンっ」は、鶴瓶さんが到着したことを米二さんに伝える合図だったのかな? などと想像いたしましたが。
年間100席を目標にされているとのことで、この日が62席目とのこと。8本のレギュラーと、月2回の旅行(NHKのあれですか)を抱えてらっしゃるとのことで、大変だなぁ。時間が押しているとのことで、マクラもそこそこに「錦木検校」へ。
この「錦木検校」、以前繁昌亭の昼席でも聞いたことがあり、その時、マクラで柳家喬太郎さんの名前を出してらっしゃいました。ですので、喬太郎さんの「錦木検校」の上方への移植といっていいかと思うんですが、この時は正直、楽しめなかったです。
喬太郎さんの「錦木検校」はさわやかな若侍(実は大大名の次男坊。親に疎まれて下屋敷にて家臣と同様の暮らしを送っています)の人物造形が印象的なのだけれど、鶴瓶さんのそれは野暮ったいだけという感じがしました。
喬太郎さんの形ではクライマックスで「馬鹿!」と振り絞るように叫ぶシーンがあります。そこもそのまま演じられていたのですが、そこにも少し違和感を感じてしまいまして。だって、鶴瓶さん、イメージとしてはコテコテの関西人じゃないですか。「アホ」という言葉はよく似合うけど「馬鹿」って言うの見たことなかったし。
で、そういえばTwitterでこの時の感想をtweetしてたなと思い出して、検索したんですが、うわ、俺、偉そうなこと書いてるなぁ。でも、この時の素直な感想でもあるので引用しますね。

繁昌亭昼席終了。トリは鶴瓶さんで「錦木検校」……正直、あまり良くなかった。俺、喬太郎師の「錦木検校」は好きで、何度もCDで聞きなおしているんだけど……あれでは劣化コピーだよ。

喬太郎師の「錦木検校」では、いつも大名言葉が若侍の言葉に豹変するところで背中がぞくっとするんだけどさ。鶴瓶さん、あの声質で、同じように爽やかな若侍をやろうとしても、無理があるのでは…若侍が使う「馬鹿野郎」という言葉も、どうにも不自然に思えて…

鶴瓶さんの「錦木検校」。雅楽頭家の酒井氏は播州にも縁が深いのだから、いっそのこと、侍も大阪弁にして再構成したりとかしてくれないかなぁ。それなら、また別の雅楽頭像が出てくるだろうし、それなら聞いて見たいと思うのだけれど……若くなくて不自然な標準語を話す雅楽頭はどうにも…

偉そうだなぁ、俺……




(自己嫌悪中です。しばらくお待ちください)




で、本日の「錦木検校」ですが、ものすごく良かったです。
若侍は市井にまみれた暖かい人物として演じられていて、按摩の錦木に対する誠実な態度が喬太郎さんのものより強調されていて。喬太郎さんのコピーだなんて思わせない、独自のものになっていたし。
病床の錦木を気遣う長屋の住人とのやりとりも、深い物になっていたし。
前回感じた「馬鹿野郎」という言葉への違和感ですが、今回は「馬鹿野郎」という言葉の位置づけ自体が変更されていました。クライマックスでの決め台詞ではなく、若侍の(感心できないと家来に諌められるような、それ故に砕けた人となりを象徴するような)口癖とされており、序盤から発せられたこの「馬鹿野郎」という温かみのある台詞が大名となった後に錦木の前でも発せられることで、大名になった今でも錦木に心を開いていることが表現されており、いやぁ、噺を練るって、こういうことを言うんでしょうね。5か月前から随分と違う噺になり、最後は目頭が熱くなりました。
誕生日を調べてみたら、鶴瓶さん、今年の12月で60歳になられるみたいで。還暦を前にして、日々自分の高座を進歩させていっている、それを目撃できたことは本当に嬉しく、幸せなことで。
というわけで、7時から9時半まで、中入なしでノンストップで5席。密度の濃い会でした。来て良かった。

*1:庄屋さんが「うーん」とうなり声を一回あげるのみ

*2:「バーン」(殴った音)の後、庄屋さんの状態に気が付かないままに少し喋り、「あ、死んだ」で終了(笑)。