万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

「機械仕掛けの愛」はオールタイムベスト級の傑作SFだ


業田良家「機械仕掛けの愛」1巻を読了した。
なんなのこれ、もう。泣けるじゃない。
また、その「泣ける」シーンが実にSF的だというところが、SFファンとしては非常に嬉しいじゃない。




「機械仕掛けの愛」は、ロボットが家庭にも普及した未来を舞台にした連作短編集。
こう言ってはなんだが、ロボットを安易に「擬人化」している面はないわけではない、というか、大いにある。
この連作短編集では「ロボットに心は持てるのか」といった難しい問題は登場しない。最初からロボットは心も感情も持っているし、ロボットが涙を流すシーンも普通に出てくる。
また、収録されているストーリーのいくつかにおいては主人公のロボットを人間に置き換えても問題ない。主人公がロボットであるということを全然活かせていない、と批判的に見ることも可能である。
収録作の中の一編「リックの思い出」でもそれは同様だ。
ロボットは何の説明もなく普通に感情を持っているし、次第に社会を転落していくその姿はワーキングプアやら階級化していく社会における人間に置き換えても何の問題も生じない。例えそれが哀切に満ちた胸を打つものであっても。
ところが、だ。
「リックの思い出」のクライマックスは、主人公のリックがロボットであるからこそ、初めて成立する。この社会の底辺からのささやかな、実にささやかな勝利は、リックがロボットであったからこそ可能だったのだ。
本書194ページおよび195ページ。リックの小さな思いが、世界中を埋め尽くす。
なんと悲しく、美しく、優しいビジョンであろうか。このビジョンがあるからこそ、私は本編をオールタイムベスト級の傑作SFだと呼ぶことに何の迷いもないのである。