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万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

10月6日 桂米團治独演会/落語会の最中に客席で急病人が出て、でも頑張ったら神様が見ているかもという話

日常 落語

神戸朝日ホール 桂米團治独演会

米輝……子ほめ
米團治……鷺とり
あさ吉……天災
米團治……たちぎれ線香
中入
米團治……くしゃみ講釈



落語会では通常カーテンコールは起こらないが、カーテンコールが起こった落語会、というのをひとつだけ本で読んで知っている。
桂枝雀、初の東京歌舞伎座公演。地獄八景亡者戯を演じきった後、幕が下りても鳴り止まない拍手。枝雀さんは幕の前に出て観客に応えたそうである。
今日、少し変則的ではあったが、その「落語会でのカーテンコール」というのを目にすることが出来た。米團治さんは少し戸惑っているようにも見えたけれど観客の拍手に応え、再び幕の後ろへと茶目っ気たっぷりに消えて行った。



なんでこのようなことが起こったのか。まあ、偶然のハプニングによるものなんだが。
時間を少しさかのぼると、米團治さんはまるで枝雀さんのように座布団からはみ出さんばかりに……というか完全にはみ出して、時には横に倒れ、時には膝立ちになって、喜怒哀楽もたっぷり表現し、それでいて講釈のシーンは台を叩くだけではなく細かい身振りまで入った見ごたえのあるものだったりして、観客は(もちろん私も含め)大喜びだった。私の記憶などあてにならないが、米團治さんのくっしゃみ講釈は以前にも繁昌亭で聞いたことがあって、その時も楽しくはあったけれど今日はもっともっと楽しかった。大体、前に見たときはこんなに動いていなかった気がする。今日は会場が広いからだろうか。それとも別の理由があるのだろうか。そういえばあの時はネタが終わり頭を下げ、緞帳が下がってきている最中に本編そのままに「ハックション!」とくしゃみをして見せていたことを覚えている。やっぱり茶目っ気たっぷりである。



さらにもう少しさかのぼる。
中トリのネタは「たちぎれ線香」。上方落語を代表する泣ける話・泣かせる話のひとつ。大ネタであり、そうほいほいと何回もかけられるネタではない。つーか、まあ私が規模の大きな落語会に行ける機会が少ないということもあるけれど、実は生で聞くのは今日が初めてだったりする。
お茶屋遊びの実体験の話題で軽やかに本編に入り1分たったかたたないかの時、客席からうめき声らしきものが上がり、米團治さんは噺を中断して「大丈夫ですか!?」と客席に声をかけた。
急病人である。
米團治さんが「スタッフの方、来て下さい」「担架を」など、高座から呼びかける。スタッフさんやお弟子さんの団治郎さんが入ってくる。場内は騒然とする。連れ立ってきた友人と思しき初老の女性が、具合を悪くして朦朧としている友人を心配そうに覗きこんでいる。中年の男性の方が心臓マッサージを試みている(中入後のまくらで米團治さんがおっしゃっていたんだが、偶然お客さんとして会場にいた医師の方だそうである)。当然ながら客席がそちらに注目している。
やがて、場内に車椅子が持ち込まれ、それに抱え上げる形で乗せられた急病人の方は、朦朧としながらも意識はある様子で、会場の外へと運び出された。
その間、噺は中断していたが高座は中断していなかった。スタッフの皆さんが場内に入ってきた段階で団治郎さんが手振りで「一旦高座を降りられますか?」と確認していたのだが、米團治さんは「いや、私は大丈夫です」と答え、小咄で時間をつないだ。
そして、噺はまた最初からはじめられた。はじめられたんだが、序盤、番頭さんが間をたっぷりととって煙草を一服吸い、頭に血が上って部屋に怒鳴り込んできた若旦那をお坐りなさいと一括する場面で、小さいながらも客席から笑いが起こった。
米團治さんのたちぎれを聞いたことがないので勝手な推測だが、ここで米團治さんは、なにかを感じ取られたのではないかと思う。
その後に展開されたたちぎれ線香は、客を「泣かせる」ためのものではなく、客を「楽しませる」ものだった。もちろん、泣かせるシーンもしっかりしていて、終盤、今は亡き想い人に声をかけようとするもそれが声にならない、そんな場面では涙腺がかなり刺激されたのだが、そこに至るまでの雰囲気は決してウェットなものではない、コミカルで笑いも多いものだった。若旦那がお茶屋に行くために丁稚さんを捲く場面では、まるで全力疾走しているかのようなオーバーアクションで場内から笑い。ああいう演出って、少ないと思う。


つまり、心臓マッサージの姿が目撃される、もしかしたら命に係わるかもしれないアクシデントに遭遇した我々観客は動揺していた。笑いを求めていたのだ。
そして米團治さんはたちぎれ線香という上方屈指の泣ける話を、コミカルに熱演することでそれに応えた。


そして中入後、まくらで幸運にもお医者さんがいて的確な応急処置をしてくれたこと、今は病院で処置を受けていることなどに触れ、くっしゃみ講釈へ。その高座が実によく動く、ものすごく楽しいものだったことは既に書いた通り。


いままで私が米團治さんに抱いていたイメージは、「サービス精神の旺盛で」「芝居噺が得意な」「華やかさのある」噺家さん、というもので、決して座布団から飛び出すようなイメージではなかった。
それが今日は、もう盛大に飛び出したしはみ出した。こういったオーバーアクションというとどうしても桂枝雀を連想せずにいることなど不可能なのだけれど、それでも、人間国宝桂米朝を親に持ち爆笑王と呼ばれた桂枝雀を兄弟子に持つ米團治さんは、そんなことは知ったことかと言わんばかりに高座で躍動した。おそらくはアクシデントを目撃した我々を楽しませるために。
サゲを言い終わり、米團治さんが頭を下げ、両脇から幕が閉まっていく。送られる拍手はかなり大きいものだったように思う。もちろん私も拍手した。気づいたら顔が満面の笑みになっていた。


と、ここで二度目のアクシデントである。
閉まっていく幕の内側で、誰かがこけよった。
で、なんか台みたいなものがごとりと倒れて、幕の下から覗いた。客席から笑い。
そして閉まった幕の中央から、米團治さんがまたひょい、と姿を現した。誰かが転び、倒れた台が覗いたあたりを心配そうに眺める、茶目っ気たっぷりのちょっとしたパフォーマンス、サービスである。
しかし、観客はそれを見逃さなかった。米團治さんは、先ほど同様の大きな拍手で迎えられた。
そして「落語会でまさかカーテンコールがあるとは(笑)」と多少戸惑いながらも、米團治さんが観客に再び応えることとなったわけである。
世の中には偶然というものがあるもので、中には本当に神様とか見てるんじゃないか、で、その神様は案外茶目っ気たっぷりで、だもんで米團治さんに「今日のおまえはよくやった」と変則的なカーテンコールをプレゼントしたのではないかと思える様な偶然というものが、あるもので。
その神様は今頃雲の上で頭を掻いて「スビバセンネェ」とか言っているんじゃないかと思える様な。