万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

【大いにネタバレあり】「おおかみこどもの雨と雪」の感想(リベンジ)/非現実的で願望充足的なファンタジーだが、だからこそ俺は大好きだぜ


えーと、ついさっき、映画館から帰ってきました。「おおかみこどもの雨と雪」、初日、2日目、3日目と見に行ったわけですわ。
ようやく、自分の中で感想がある程度固まったので書いてみます。
大いにネタバレあり。







見に行った初日、半ば興奮状態で書いた最初の感想では私、この作品が現代的だなんて書いていますが、撤回します。「おおかみこどもの雨と雪」は非現実的で願望充足的なファンタジーです。
おう! そうだともさ! 何が悪い!
も少し丁寧に言うと、「きわめて古典的なテーマを現代の観客に合うようにリファインしたという意味に限定して現代的」です。先のエントリでもそれには触れていますが、正直、それ以上の意味も込めていたので、撤回。
いやね、ディテールが見事なので、気持ちよくだまくらかされたわけですよ(悪い意味ではないです。念のため)。映像が見事なのでそれにつられてしまったとでもいうか。でも、これ、極めて非現実的なストーリーです。
言い換えるとね、非現実的なストーリーに、的確な描写と演出で持って力技で説得力持たせてるの。
現実では、余所者に仕事抜きであんなに親身になってくれるコミュニティなんざ存在しねーし、家事的な意味でも容姿的な意味でもあんなハイスペックな母親なんてもっといねーよ!(笑)
昨日書いたエントリ(つまり、2回目の視聴後に書いたエントリです)でいくつか疑問点を挙げたんですが、これらの疑問点、深読みしても何も出てこねーですよ、たぶん。
要は「私の考えた理想の母親」「私の考えた理想のコミュニティ」を描くためにはそうする必要があった、という理由ですわ、おそらく。親子のコミュニケーションがテクノロジーで阻害されたら困るし、必要な情報がテクノロジーからもたらされたのでは困るし、その情報もテクノロジーから得られたものであっては困るから、それらの要素、テレビ・ケータイ・ネット・農機具を排除したんでしょう。
で、その分しわ寄せが子どもに行っている部分ってのがありまして、雪の「大人になりたい」なんてのはその最たるもの。あれね、完全に記号ですわ。「思春期の子供は親から離れていくものだ」という記号。つまりあれ、「離れていく子供を頑張って笑って見送る、私にとっての理想の母親」を書くために必要だったからああなってるんで。
だからね、ナレーションでの雪の母親への態度とあのシーンでの家庭への態度が乖離起こしてるんですわ。


つーわけで、「おおかみこどもの雨と雪」は、「私にとっての理想の母親」と、それを成立させるために必要な「私にとっての理想のコミュニティ」を描いた、極めてアレなファンタジーです。ラストに近い重要なシーンで、花の髪型が変わってまるで昔みたいになっているのだってそのためだよ。
も一度言うけど、それの何が悪い?
つーかね、この映画はだからこそいいんですよ。
若くて綺麗な母親が涙を浮かべながらも笑って……、最高のシチュエーションですぜ、旦那。
現実にはそううまくは行かない。そんなことはね、わかってますよ。もちろんそういった理由を持って、この作品を楽しめない人も当然いるだろうし(その人にとっての「理想」と合致しなかったら当然そうなりますから)、楽しめなかったことをもって非難なんて、断じて許されることではありませんが。
でもね、願望充足的な物語だって、十分すぎるくらいに意味はあるんです。
あなたが今まで楽しんできた物語を振り返ってごらんなさい。そこには必ず願望充足的なものが含まれているはずです。ないとは言わせませんよ?
そして「そんなうまくいくはずはない」とわかってはいても、それでもなお太陽のような輝きを放っているはずです。決して手の届かないものであるが故になおさら。
この作品は、持てる限りの映像技術と演出力で持ってそんな太陽を作って見せた、素晴らしい作品なのです。だからね、私はこの作品、大好きです。やっぱりあれだよね、自分とどこか重なるところがあると、その見事なつくりが故に、刺さっちゃうよね。



さて、完全に余談ですが、「そんな非現実的な作品を作って、現実に悪影響でたらどうするんだ?」といったご意見もございましょう。
そこから先は、もう完全に教育の問題。今となっては懐かしい「ひぐらしのなく頃に」「School Days」の暴力描写を問題視するのと同質の問題ですわ。
だからね、そんな時は「実際にはあんなにうまくいかないし、それでいいんだよ」と言ってあげることが、たぶん私たちにできることです。繰り返しますがこれは作品の評価とは関係ないので、完全に余談。