万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

林家そめすけの大冒険

林家そめすけ 大阪人情落語24区


そめすけさんが大阪の各区にちなんだ創作落語に取り組んでいるというのは、知ってはいたんですよ。
ただ正直、あまり注目していなかった。私、東日本出身で大阪の歴史やら建造物やらにそこまで思い入れがないこともあるし、ただ歴史的なものが登場するだけで、皮相的なものなんじゃないか、と甘く見ていたんですね。うん。


で、昨日、貴重な上方落語の配信サービスであるところの「ライブ繁昌亭」を見まして。考えを改めました。
昨日、高座にかけられていた噺は生野区にちなんだ落語で演題が「百済川
百済
おおう。
そこらへんの空気が微妙な時期に、これは。



見てみましたら予想通り。在日朝鮮人が登場するお話。
しかも、在日朝鮮人と日本人の結婚というテーマを扱っていてですね。
生野区のコリアンタウンの成り立ちを説明する部分も、聞き役の女の子のキャラが愉快で、面白く聞けたし(そう、説教臭くならずに笑えるというのが、すっごいいいと思います)。
ロミオとジュリエットたる二人の親御さんが互いを嫌う理由*1が、登場人物が体験した具体的な物事に落とし込まれている、というのも、すごくいい。観念的じゃないんですよね。「あいつらは悪い奴だから嫌いだ」じゃなくて「俺は、俺の親は、こんなひどい目にあった。だから嫌いなんだ。許せないんだ」と。
メッセージ性が強いフィクション、しかも時間がある程度限られた落語という形式では、メッセージを冷静に検証するのではなくて受け手の感情に訴えかけるという形になるわけですけど*2、嫌悪の理由を登場人物の具体的な事例に落とし込むというのは、嫌悪感の暴走を防ぐという意味で、バランス感覚に優れているのではないかなー、などと。
で、過去で生じたわだかまりは、また別の過去の発覚によって雪解けを迎え、若い世代に希望を託してエンド。美しい物語です。


で、認識を改めたわけですよ。これは皮相的かもだなんて勝手なイメージをもって申し訳なかった。生野区を題材にした落語を作ろうと思い立ったとして、コリアンタウンと差別を扱うなんて、正面突破もいいところじゃないですか。
これを24区でやろうというのだから、とんでもないですよ。
しかも、御存じのとおり大阪では都構想というのが持ち上がっております。つまり、行政区画としての区が変わるかもしれないわけで。
そんな中で、その土地の歴史、その土地の記憶を落語という形で抽出して残そう、てんですから。
ものすごいチャレンジです。
注目すべき噺家さんにあまり増えられると、時間的に困っちゃうんだけどなぁ(笑)。

*1:少々単純化して書いてますが、正確には娘さんの親御さんが結婚に反対しているという設定です

*2:もっとも、これは落語に限らず創作物全般がそんなとこありますね。うろ覚えですが、エルヴィス・コステロがそんなこと言っていたおぼろげな記憶が……