万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

客席の雰囲気

今日は久しぶりに繁昌亭の昼席へ行ってきた。今週は二乗さんの繁昌亭輝き賞受賞記念ウィーク。二乗さんが出演するのはもちろんだが、毎日口上がある上に、米二さんが毎日トリをとられる。私が一番好きな落語家さんが米二さんであるので、前々からすごく楽しみにしていた。
本当は明日も行きたかったのだけれど、チケットが売り切れていたのよね。
私が落語に関心を持つようになってから米二さんが一週間トリをとられるのは初めてのことなので、どんなネタをかけられるのかと思っていたのだが、水曜日まで「青菜」「くしゃみ講釈」「茶の湯」と、普段中トリで出演される際には(おそらく)少し短めにまとめてかけているネタを、たっぷりと時間を使ってかけてらっしゃるようだ。
二乗さんは繁昌亭では「癪の合薬」の印象がやたらと強いのだけれど、初日は「癪の合薬」、それ以降は「短命」「阿弥陀池」と、こちらも毎日ネタを変えていて、普段の出番では見られない顔を見ることが出来ているようで。
おまけに中トリが塩鯛さん、脇を固めるのがよね吉さんに文都さんだから、これは強力なラインナップである。
それと、ネットでの配信でも感じたし、今日客席でも感じたんだが、客席の反応がとてもいい。すこし反応が鈍いときだとスルーされるようなクスグリでも敏感に反応し、つられてどんどん楽しい気分になってくる。受賞記念ウィークということで二乗さんや米二さんに思い入れのある人が多く来ているということもあるのだろうか。とにかく、みんな積極的に楽しみにきている感じがする。
以前福笑さんがまくらで、演者をどんどんのせていく客席と言う話をされていたのを聞いたことがあるが、今週の客席がそのようなものになれていたとしたら、聞く側としてもこれは大変に幸せなことである。

それで思い出したのが、少し前に行った動楽亭の昼席。これが見事な流れで。逆に客席の空気をうまいことコントロールされるような快感があり、とても心地よかった。
この時は開口一番の優々さんからして少し珍しいネタ(「裏向き丁稚」)で、少し得した気分で始まった。その次が雀太さんの必殺の爆笑ネタ「代書」で、つぎをわかばさんが「つる」で繋いで、中トリのよね吉さん「子は鎹」で最高潮に達する。実に濃い、涙腺こじ開けるような熱演。
さて、これがなんというか、普通の落語会だったらこれでもうおしまいで、「今日の『子は鎹』よかったなー」と余韻に浸って帰路に就く雰囲気であり、最高潮に達しちゃったんだから後は落ちる一方なんである、普通だったら。
(そういう意味では中トリでは少し重量級に過ぎるネタとその完成度だったのかもしれない)
ただ、ここから先が圧巻だった。中入が終わり文之助さんは「短命」。これが軽快さの権化みたいな素晴らしい高座で、重量級の「子は鎹」を受け止めて、感動しつつもすこし重々しくなっていたこちらの心を見事に軽やかに、愉快にさせてくれる。
トリは九雀さんの「筆まめ間男」これも小品であるけれど、実に気の利いた新作で。
終わってみると、重厚な「子は鎹」の余韻に浸って帰路につくはずが、実に軽やかで爽快感あふれる気分になっていたのである。実にお見事だった。
よく「普通は一番の大ネタをトリに持ってくるけれども、米朝一門では一番の大ネタを中トリに持ってきて最後は軽めにして締める」と聞くが、なるほど、それはこう言う事だったのか!