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万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

ティプトリー「接続された女」を落語にしたら/桂ぽんぽ娘「乱子の恋」

SF 落語

先日足を運んだ落語会で、桂ぽんぽ娘さんの「乱子の恋」という新作落語を聞いた。ぽんぽ娘さんは今までメイド漫談しか聞いたことがなかったのだが、あのティプトリーの傑作短編「接続された女」を現代劇に(それも少し昔の、ちょっと懐かしい現代劇に)したかのような見事な出来で、すっかり感心してしまったのだ。
過去に様々なアルバイトをしたぽんぽ娘さんがテレクラのサクラのバイトをしたときにいた、ものすごいやり手の先輩乱子さんの話、という道具立てである。本当にそういう人がいたかは知らない。そもそも本当にテレクラでバイトしていたかも知らない。


聞いた人も多くはないだろうから、簡単にあらすじを書いておく。
乱子さんの外見は、ものすごく太っていてしかも前歯がない、と描写される。うひゃあ。しかし、そのアルバイト先では断トツでナンバーワン。納豆巻をしゃぶることで淫靡な物音を演出しつつ、ものすごく稼いでいる。
そんな乱子さんに、気になる男性が現れた。テレクラの客なんだけれど、Hな話題じゃなくて身の上話や世間話をしてくるそうだ。
他の客とはちょっと違う雰囲気を持ったその男性に惹かれてしまった乱子さん。ある日とうとう、直接会う約束をする。もちろんご法度なんだが、それでも。
そしてしばらくして、目を真っ赤にはらした乱子さんが帰ってきて……といった内容。


どうだろう。見事なまでに「接続された女」の要素が凝縮されてはいないだろうか。
接続された女」の主人公P・バークは、その外見が人並み外れてアレなために不幸な目にあい、人生に絶望して自殺を図る。乱子さんも、その外見ゆえになりたかった職業につけず、挙句の果てにテレクラのサクラなんぞをやっている。つまりだ、両者ともそのハンデキャップゆえに社会から疎外されちゃっているのだ。
P・バークは自殺しようとしたところを命を助けられてしまい、「デルフィ」という美少女のアバターを操る役目を与えられる。美少女を操る役になったわけだ。そしてそこで、デルフィがスターダムに駆け上がるという形で隠れた社会的な成功を得る。
乱子さんはどうかというと、テレクラのサクラで断トツのナンバーワンだ。こちらも、「声」という虚構を用いて、社会的には公にできないような形での成功を得る。
P・バークはその後、禁断の恋に落ちてしまう。しかし相手の男が恋しているのはデルフィ。自分ではない。しかしそれでも思いを抑えることができない。社会から疎外され続けてきた自分をとうとう慕ってくれる人物が現れたのだ。無理もない。この状況も、乱子さんのそれと見事に重なるのはもう言うまでもないだろう。
そしてP・バークの恋も、乱子さんの恋も、間に一枚、虚構の存在を挟んでいたがために、必然的に悲劇的な結末を迎える。


さあ、どうだどうだ。
接続された女」と言えばサイバーパンクの先駆的作品としても名高い傑作だ。それゆえ、ついつい情報化社会に絡めて語ってしまいがちだ。
ところがどっこい、「テレクラのサクラ」という、2016年の今となっては懐かしさを感じる道具立てで、見事に再現できてしまうのだ。おまけに、一見メロドラマ的な要素のみを抽出しているようで、しっかり「虚構の自己を演じるが故の悲劇」という大事な要素もしっかり取り入れている。面白うてやがて悲しき、見事なコメディになっているのだ。
接続された女」が好きで、なおかつ「乱子の恋」を聞いたことがあるというと日本でも下手をしたら十指に満たない気もするのだけれど、聞いていて感心しっぱなしだった。お見事でした。