百合の香り漂う表紙や粗筋からは想像つかないが、途中から戦場成分が盛り込まれてくる。だから火薬と硝煙の物語でもあった「虐殺器官」が好きだったという人も大丈夫。
そしてなによりも、「ハーモニー」が「虐殺器官」と同じ世界を舞台にしていることが、作中で示唆されている。続編かもしれないんだよ、この「ハーモニー」は。
特筆したいのは、「虐殺器官」に続いて「ハーモニー」も進化心理学的なアイデアを取り扱っていること。
アイデア的には「虐殺器官」を更にラディカルに深めたものと言っていいと思う。
副読本としてお勧めしたいのは、この間も取り上げた「迷惑な進化」(迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか)。「ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト」(ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト―最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅)。下條信輔の諸作(サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ (中公新書)[asin:4061494392:title]サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書))あたり。そして、いや、私も積んであって読了していない、言ってみれば宿題の本なんだけれど「神々の沈黙」(神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡)だろうか。
また、同様のテーマを扱った作品として、この間読んだ「年刊日本SF傑作選 虚構機関」(虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫))に収録されていた山本弘「七パーセントのテンムー」を思い浮かべた。
考えがまとまったら、またなにか書くかもしれないけれど、「虐殺器官」と「ハーモニー」はある意味反対の方向性を持つ物語だとも書いておきたい。つまり、混沌へ向かう物語と秩序へ向かう物語として。そのくせ、どちらも救いがたい。エントリのタイトルを「火薬と進化心理学の幸福な結婚」ではなく「不幸な結婚」と書いたのは、この救いのなさのためだ。