「あなたのための物語」、読後一日たって、もう一感想を書いてみる。
ネタバレを含むので、ご注意ください。
どうもこれはミームについての物語であるんじゃないかという考えが、頭を離れないんだなぁ。
人間もテキスト/物語であると何度も繰り返しているこの作品、そこからさらに人間もミームの一形態としてとらえることができるなんていう、なんかとんでもないところまで突っ走ることも多分可能なんだけれども。まあ、そっちの方向性はひとまず置いておくとして。
この作品が、主人公サマンサと仮想人格wanna beの愛の物語として読むことができる、というのは、読了された皆さんご存じのとおり。
wanna beの最後の行為はいったいなんだったのか、って話ですよ。
ミームって、様々に変異したり、どんどん広がっていったりと、まるで生物のように振る舞うと解釈できるけれど、wanna beの最後の行為は、生殖行為ではなかったのか、などと思うんだ。
wanna beは仮想人格である、つまりどっからみても情報そのものなわけで、彼が何らかの情報を他者の中にアクティブな形で残す、ということは、子孫を残す行為に相当するものじゃないか、などと。
彼が活動する「世界」はサマンサそのものであったわけで、であるから、間もなく死んでしまうことがわかっているサマンサを媒体にして子孫を残した、と。
その子孫がさらに反映する可能性はゼロに近いわけで、方略としては拙いものだけれど、それはwanna be自信の未熟さを反映している、とも言える。
自らの死をもって、子孫を残すという行為が愛の物語として描写されるというのが、なんとも業が深いというか。
そういった目で見ると、「あなたのための物語」は死に向かって突き進むというだけの話ではなく、新たな誕生の話でもあるのかもしれない。