最近、読書量が減ってしまってなあ。歳なのかね? 体力の問題なのかね?
いや、最近の本がつまらなくなったなんていうことはないんだよ。だって、むしろ読む本読む本素直に楽しめているし。
たしかに、ここ数年、小説以外の本を読むことが多くなってね、いや、小説は活字の本の王だと思っていた若い頃とは、明らかに好みが違ってきているわけでもあるけれど。
でもなあ、やっぱり一番は体力の問題だと思うんだよなぁ。
いや、本は相変わらず面白いし、寝食忘れて夢中になって読むことだってあるんですよ?
例えば、それは「天冥の標」であったり、「ハーモニー」であったり、「あなたのための物語」であったり、「ゲームと犯罪と子どもたち」であったり、「アリの背中に乗った甲虫を探して」であったり、「ハンニバル・やる夫・バルカスがローマに喧嘩を売るようです」であったり、「世界樹の迷宮?」であったり。
昨日と今日もそんな感じでありましてね。
泣けるほどおもしろすぎるネット小説を読んだので熱烈推薦するよ。 - Something Orange
この紹介記事を読んで(正直に言うと、長文だったんでちょっとだけ読んで)面白そうだなと思って読み始めたんですよ。
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」まとめサイト
いやあ、面白いね。
とても面白いね。
「このラノ」や「ラノサイ杯」で上位に食い込むべきだね。
SF大会で話題になるべきだね。
本の雑誌で、大森望に勧められて目黒考二が読んでしまうべきだね。
電子書籍でわーわー言ってる変態たち*1は、kindleとかiPadとかどうでもいいから、PCに釘付けになって読むべきだね。
本書はライトノベルの影響を強く受けた作り。
擬似的な中世ヨーロッパ的な、というより、まあ、ヒロイックファンタジー的な、というよりも、RPG的な世界観。まあ、主人公からして勇者と魔王であるからして。
発表された媒体が2chのスレだと言うこともあり、ほぼ100%会話文のみで構成されている。
巨乳のヒロイン、貧乳のヒロイン、童貞のヒーローという、お約束的な構図を採用している。
「経済」という要素の導入だって、新しくはない。経済小説とライトノベルの融合で「狼と香辛料」を思い出さない人はいないだろうし。
つまりですね、本書は手垢にまみれたような道具立てばかりで構成されていて、目新しいことなんてなんにもない。
ええい、本書を褒めるのに、本書を楽しむのに、そんなもの必要ないんだよ! こんなに面白いんだから!
こういう物の面白さ、楽しさ、すごさを堂々と評価することが出来るのが、リミックスやらマッシュアップやらMADやらといった物を知ってからの文化、不可逆的な価値観の移行って奴なのですよ、多分。
よーし、おじさん、ちょっと法律的にグレーなことしちゃうぞ。
この感動的な映画評で、ライムスの宇多丸師匠は、「インビクタス」を運動が少しずつ、本当に少しずつ波及していくことを描いた物語だと喝破したけれども、この『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』もまさに「波及」の物語。
知識が、価値観が、波及していく。そのことについての感動的な物語だ。
戦争が政治的活動であり経済的活動であるのなら、同じ道具を使って、その向こう側に行くことが出来ないか。そんな青臭い価値観を、ただひたすらに、執拗に、辛抱強く信じ続ける物語だ。
私たちはその青臭い答えに対する答えを持っていない。だから擬似的な中世が舞台なのだろう。現在の価値観というフィルターを通してみれば、幼稚な問題に手を焼き、今の技術を持ってすれば、問題が簡単に解決できてしまうかのように思える、擬似的な中世。
実際、この物語はそういう物語である。中世に現代的視点や技術を持ち込んだら、その世界は素晴らしいものになるだろうか?
それは実際に読んでいただくとして……
これは知識と理想を高らかに歌い上げた物語
違うな、訂正する。
これは知識と理想を高らかに歌い続けることが如何に尊いことであるか、それについての物語である。
あなたがどこかで知識を求めているのなら。
あなたがどこかで理想を棄てきれないでいるのなら。
この物語は、あなたと共にある。
*1:本を読むのが好きだなんていう奴は、もう須らく変態ですよ。