万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

12月28日に演劇を観に行った記録/桂九雀で田中啓文、こともあろうに内藤裕敬。/あなたの疑問は、決して間違っていません

演劇なんざ、小学校の体育館で見せられて以来である。
心斎橋のウイングフィールドへ


桂九雀田中啓文、こともあろうに内藤裕敬。 笑酔亭梅寿謎解噺 立ち切れ線香の章」

原作 田中啓文「ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺」
脚本・演出 内藤裕敬
出演 桂九雀(落語家)、坂上洋光(男)、石川郁子(女)

原作は不良少年の竜二が無理矢理大御所落語家の笑酔亭梅寿に入門させられ、落語家として成長していく姿をコミカルに描いたミステリだけど、その枠組みは脇に除けられている*1
弟子をとりたいと思っている噺家が「内弟子入門コース」(笑)に参加した二人の男女に「立ち切れ線香」を聞かせようとするのだが、二人は黙って聞いていない。事あるごとに噺を中断させ、いやそこはおかしいのではないか、こうなのではないか、と噺に(こともあろうに上方落語の大ネタ「立ち切れ線香に」!)ツッコミを入れてくる。そして、それは違う、本当だったらこんな風だろ、となんと師匠に向かって「見本」まで見せ始め……
と、粗筋をまとめるとこんな感じだろうか。29日と30日も公演があるので詳しくは書かないけれど。
正直、中盤までで、見ている最中に連想したのは「ハナシがちがう!」ではなく、OLが落語教室に入門し落語の魅力に見覚めていく平安寿子の小説「こっちへお入り」であった*2
というのは、「こっちへお入り」の魅力の一つというのが、既存の落語についての解釈、であるからだ。この演目のこの部分はおかしいんじゃないか? なんでこうなるんだ? という疑問、違和感。そういった理解できないものを次第に理解していく、という話なんである。
この舞台でも弟子候補の男女が「立ち切れ線香」に遠慮なしにどんどん疑問、違和感を表明し、愉快なツッコミを入れる(結果として落語家の高座は細切れに分断されるのだが、不思議なもので見ているうちに「いつツッコミが来るんだろう。ワクワク」と楽しみになってくる)。
ただ、ひとつ重要な相違点がある。その疑問・違和感は却下されない。大笑いのすったもんだはあるけれど、決して却下されないのである*3
考えてみれば、九雀さんは古典の改作をやってきた人だ。そうした疑問や違和感、そういったものを大事にしてきた人、なんである。
かくして、舞台上で男の解釈、女の解釈、落語家の解釈、それらが併存する。
そうだ。そもそも、落語を良く聞く人ってのは、その併存ぷり。演者による解釈の違い、それを楽しんでいるんだ、そういえば。
そういった解釈が違う事の素晴らしさを、涙と笑いでくるんで、おまけにオチまでつけて。これは演劇だけれども、落語についての演劇であり、落語についての物語だ。愛情こもりまくりである。
演劇のことはよくわからないが、落語ファンは是非見ておくべき……なんだが、今、公式サイト(http://sakaihirokoworks.net/baijyu/)見てみたら、30日の公演はもう完売で、明日(29日)の2公演しか残っていない。いや、実際今日も満杯だったし。
だもんで、ちょっと厳しいかもしれないけれど、是非是非。





で、こんな面白いのを3日間だけって、もったいないっすよ!

*1:ただ、終盤で「ああ、確かにあの原作だ!」となるっす。

*2:繰り返すが、最終的には「おお、確かにこれは「ハナシがちがう!」だわっ!」となります

*3:ただし、「こっちへお入り」でも却下されるわけではない。ただし、主人公が「ああ、そういうことなんだ」と理解しちゃうのである