今日は道頓堀ZAZAに行ってきた。柳家さん喬ひとり会。会の開演まで時間を潰そうとあたりを歩いたら、キャッチに声をかけられてウザったいことこの上なかった。行く度にそんな感じだから、道頓堀ってあまり好きじゃないんよ。
会の方は開口一番で小鯛さんが「平林」。おそらく客席にはすれっからしの落語ファンも多いであろう中、話が進むにしたがってきっちり盛り上げてバトンタッチ。
さん喬さん、最初の一席目は「千両みかん」。まずまくらで大阪の思い出や最近の雑感をフリートーク気味に(大阪に来て最初に食べたものは金龍ラーメンだったんですって!)。その後にお決まりのまくらに入ってから本編へ。コミカルで大変に楽しい。
「千両みかん」は、みかん問屋の番頭さんが気分を害して千両という値段をつけてしまうという上方の演出が大好きなんだけれども、今日見たさん喬さんのものでは、みかんを食べようとして若旦那が味わうよりも先にまず香りにやられてしまうところの様子がとても新鮮に感じられて心に残った。そこを強調して演じられる上方の落語家さんってそういえば見たことないかもしれない。
そのまま高座を降りずに二席目は「船徳」。これも大変にコミカルで楽しい。船に乗り込みまず見栄を切り、歌いながら興が乗って竿を振り回す若旦那の愉快なことと言ったらない。また、中盤以降で登場する二人組の客、その中でも船が嫌いな男性の存在感が印象に強く残った。
そんなこんなで笑い転げて中入。愉快な夏の話が続いたところで、トリの三席目には何を聞かせてくれるのかなと思っていたら、これがなんと「福禄寿」。真冬の話。しかも、笑う所もなくオチもない、ほんまもんの、狭義の『人情話』である。
しかも、人情話ではあるけれど号泣させるような話でもない。
でもそこはさん喬さんであるから、こちらも集中力を途切れさせることもなしに話にのめりこむのではあるけれど、でもやはり笑う所はほぼないみたいなものだし、オチもない。
で、噺の終りにさん喬さんが言った一言
「三遊亭圓朝作『福禄寿』…少しは涼しくなりましたでしょうか?」
この一言で一気に高座の印象が良くなってしまったというか。客席からの拍手も、さん喬さんが袖に引っ込むまで弱まることがなかった。
で、帰りにご飯を食べながら、なぜあの一言であんなにも満足したのか考えていたんだけれども、あれかな、枝雀さんがいう所の「緊張の緩和」という奴かな、などと。
前述したように「福禄寿」にはあまり笑う所がない。つまり、笑いでお客さんが発散するところがないわけで、これはずっと緊張を強いられている状態であるという事もできると思う。
それが最後のあの一言で一気に発散されたわけで。「緊張の緩和」は笑いがどういうときに発生するかを説明付ける理論だけれど、今回は笑いではなくなかなか鳴り止まない拍手と言う形でそれが表に出たのかなぁ。
表出する形では「笑い」と「拍手」は違うけれど、「緊張した状態から軽やかで愉快な状態に遷移した」と言う点で共通するのかもしれない。