万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

昭和元禄落語心中、第1話に登場する演目を上方では誰がやっているかについて、あくまで私の知る範囲で

昭和元禄落語心中アニメ化で、落語に興味を持ってくれる人が増えればいいなぁと思っているのだけれど、落語心中の舞台は東京。私は現在大阪在住で普段は上方落語を聞いて楽しんでいるわけで。
だもんで、落語心中に登場した演目を、上方では誰が演じているか、私が遭遇した範囲内でも書いておけば、少しでも誰かの案内になるかなぁとか思った次第。


まずは「死神」。明治期の東京の大名人、三遊亭圓朝作の演目なので、いまだに上方に根付いているとは言い難いです。
私が遭遇した範囲内では桂文太さん、桂文我さん、笑福亭竹林さん、桂枝三郎さん、笑福亭たまさんが高座にかけてらっしゃいました。
この中でも文太さんと文我さんは、もう演目数に関してはチートレベルというか。「実は米朝師匠より持ちネタは多いらしい」と聞いても納得してしまうような、そんなところがある。文我さんなどは「むしろありふれた演目をやっている方がレア」な気さえするし、文太さんも東京の話をどんどん上方へ移植し、お二人とも違和感なく安定して聞かせてくれる、すごいお人なのです。


続いてほんのちょっぴり、ラジオから流れてくるという形で登場した「二番煎じ」。
私が遭遇した限りでは桂雀三郎さん、桂塩鯛さん。遭遇はしていないのだけれど、第1回放送直後、先の日曜日の会で桂まん我さんもかけられたらしい(まん我さん、先に名前を挙げた文我さんのお弟子さんで、作者の雲田はるこさんとも交友をもっておられて落語会でジョイントなんかしちゃった実績のある方)。
雀三郎さん、塩鯛さん、どちらも爆笑の高座だったと記憶しています。熱演で客席を巻き込んでいく塩鯛さん。雀三郎さんは、twitterのフォロワーさん曰く「雀三郎が楽しそうにやっていたら、そりゃ無敵だろう」とのことで、本当、そう思います。古典落語で爆笑させるのだったら、もしかしたら一番かもしれない、くらい思ってますですよ。


続いて劇中で与太郎さんが熱演する「出来心」。上方では「花色木綿」の題で演じられます。
上方では別の題名がついているくらいですから比較的頻繁に演じられる演目なので、多くの落語家さんの名前を挙げるのは控えさせてもらって。印象に強く残っているのは笑福亭三喬さん。飄々とした語り口で、基本きっちりと演じられるのですが時として自由自在に時事ネタやら現代風のくすぐりやら放り込んでくる、凄腕の中堅さんです。軽めのネタから変化球の「べかこ」、大ネタ「三十石」までなんでもござれ。また、定席の天満天神繁昌亭に出るときも色んなネタかけてくれるんですよねぇ。これは文太さんもそうなのだけれど。
「東京の落語は少し聞くけど上方はあんまり……」という方には「柳家喬太郎さんと長くふたり会をやっている落語家さん」と言ったら興味を持ってもらえるでしょうか。


次に、八雲師匠の独演会の前座として高座に上がった与太郎さんが大苦戦しまくる「初天神」。
これも上方でも頻繁に演じられる話です。「花色木綿」以上に落語会や寄席での遭遇率も高い!
こちらも印象に強く残っている落語家さんだけ挙げさせていただくと、桂文太さん、笑福亭竹林さん。桂米二さん。
私、文太さんの高座を初めて見たのが「初天神」でして。その当時は落語を生で聞き始めて間がない頃で、面白かった落語家さんの名前を憶えて、帰宅してから検索して調べたりしていたわけですよ。そしたら驚愕の事実が。
「え!? あの文太さんっていう人、視覚障碍者なの!?」
そうなんです。真っ黒でお利口な盲導犬、その名もデイリーと一緒に会場入りされる立派な(?)視覚障碍者なのです、文太さん。でも、見ている間はただただ面白いばかりで、そんなこと全然わからなかった!
竹林さんはちょいとグルーミーな感じを漂わせる痩せ気味の落語家さん。最初に挙げた「死神」でも、ニヤニヤ笑う妙に陽気な(でも少し不気味な)死神も印象深いんですが、「初天神」では、口は悪いながらも子供をあやしているうちに実に嬉しそうな顔を見せる父親や、ませた物言いしながらもそのうち子供っぽく駄々をこね始める息子が実にチャーミングで印象に残っています。寂寥感漂うほろりとくる秋の話「まめだ」なんかもいいのよねぇ……ご陽気な中にも情が垣間見えるというか、そういうの、すごく達者な方です。
そして米二さん。何を隠そういや別に隠さなくても私が一番好きな落語家さんなんですが、基本、きっちり丁寧にやられる方で、じわじわじわじわ客席を巻き込んでいく、だもんで話が長ければ長いほど楽しさが大きくなっていくような方です。爆笑じゃなくて、聞いているうちにどんどん引き込まれていくタイプ。米二さんの「菊枝仏壇」「百年目」「千両みかん」「動乱の幸助」「代書」あたりはもう、私にとってはこの上ないごちそうです。
で、この初天神、途中までで切られることが多い演目なんですけれど、米二さんは時間さえ許せば最後まで演じてくれる貴重な方の1人。ぜひぜひ。


最後に八雲師匠が独演会で演じる「鰍沢」。これも三遊亭圓朝作で、上方ではほとんど演じられない演目です。
文我さんや枝三郎さんあたりもしかしたら持ってらっしゃるネタかもしれませんが、私が遭遇したのは桂文太さんのみ。「無妙沢」の題で演じられてます。なんか文太さんの登場比率高いですが、仕方ないんですよ! 私悪くないよ! 東京のネタを上方に移植するエキスパートみたいな方ですから。他にも「よもぎ餅(黄金餅)」やら「袈裟茶屋(錦の袈裟)」やら「松島心中(品川心中)」やら「八五郎出世」やら。またどれも面白いんだよ……


あともう一つ番外編で。


作者の雲田はるこさんのtweetによるとDVDには「宿屋の仇討」も収録されるとのこと。上方では「宿屋仇」の題で演じられており、大ネタとして知られています。米二さんの著書「上方落語十八番でございます」161ページから引用しますと……

うちの師匠も言うたことがあります。
「一ぺん、この『宿屋仇』を完璧にやってみたいなあ」
うちの師匠でも一度も完璧にできてないと言うんです。

いや、うちの師匠って、あの人間国宝桂米朝がこう言うんですよ? 劇中で演じる石田彰さんにとってはもう拷問ではないかと(笑)
上方落語の世界を舞台としたコミック、逢坂みえこの「たまちゃんハウス」でも、下座(お囃子さんのことです)との連携がとても重要な話として大きく取り上げられていましたっけか……
これも多くの方が演じられているのですが、おひとり、桂九雀さん。くじゃく、と読みます。
ご陽気かつサービス精神に富んだ高座で楽しませてくれる方なのですが、非常にプロデュース能力に長けてらっしゃいます。演劇と落語をジョイントさせてみたり(「噺劇」と銘打って定期的に公演されてます)、吹奏楽忠臣蔵と落語を組み合わせてみたり。かと思えばろうそくの明かりだけで楽しむ小規模な会を企画したり、投げ銭制の(本当に投げないように)勉強会を頻繁に開かれたり。また古典落語を現代風に改作されたり、米朝師匠の若き日の創作落語を復活させたり。田中啓文さんの落語ミステリ《笑酔亭梅寿謎解噺》を舞台化して3人で演じられたりもしましたっけ。あれは面白かった! どの演目をやるかだけではなく何をやるかも楽しみな落語家さんです。


以上、あくまで私の知る範囲での「昭和元禄落語心中」アニメ第1話で登場した演目は上方では誰がやっているかのお話でした。私より詳しい方は星の数ほどいらっしゃるので念のため。
2話以降も落語がたくさん出てくるといいなぁ。