万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

私家版SF OLD STANDARD その2 ハードSF 妄想自然科学入門

SFが読みたい!〈2008年版〉発表!ベストSF2007 国内篇・海外篇の「SF最新スタンダード200徹底紹介」、2番目は松浦晋也氏によるハードSFのブックガイド。その名も「科学+文芸≦SF ハードSF、理系小説」であります。
SFの中でも自然科学、ハード・サイエンスにこだわりを持つ物のことを「ハードSF」などというんでございますな。
松浦氏によるお勧めは以下のとおりでございます。

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)
第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
第六大陸〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)
竜とわれらの時代 (徳間文庫)
海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)
終わりなき索敵〈上〉 [航空宇宙軍史] (ハヤカワ文庫JA 569)
終わりなき索敵〈下〉 (ハヤカワ文庫JA―航空宇宙軍史 570)
女子高生、リフトオフ!―ロケットガール〈1〉 (富士見ファンタジア文庫)
天使は結果オーライ―ロケットガール〈2〉 (富士見ファンタジア文庫)
私と月につきあって―ロケットガール〈3〉 (富士見ファンタジア文庫)
魔法使いとランデヴー―ロケットガール〈4〉 (富士見ファンタジア文庫)
プランク・ゼロ (ハヤカワ文庫 SF―ジーリー・クロニクル (1427))
真空ダイヤグラム―ジーリー・クロニクル〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)
ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)
ハイドゥナン (上) (ハヤカワSFシリーズ・コレクション)
ハイドゥナン (下) (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)


ハードSFは、それこそ昔から数多くの傑作が書き継がれてきたジャンルでありまして。私がお勧めするのは以下の作品でございます。
空想自然科学入門 (ハヤカワ文庫 NF 21 アシモフの科学エッセイ 1)
渇きの海 (ハヤカワ文庫 SF ハヤカワ名作セレクション)
ロシュワールド (ハヤカワ文庫 SF (627))
さよならジュピター〈上〉 (ハルキ文庫)
さよならジュピター〈下〉 (ハルキ文庫)
タウ・ゼロ (創元SF文庫)
マッカンドルー航宙記 (創元SF文庫)
プラネテス(1) (モーニング KC)
スタンダードブルー (ヤングキングコミックス)
虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

「惑星CB-8越冬隊」を取り上げたかったけど谷甲州作品はすでに「終わりなき索敵」が取り上げられている。「群青神殿」を取り上げたかったけど、小川一水作品は既に「第六大陸」が取り上げられている。おまけに、これとは別に「生命科学、バイオSF」のコーナーもあるのでそっち系は取り上げることができない、と。なんとも苦しいところであります。挙句の果てに今回のランキングで1位に輝いた「虐殺器官」を入れてしまうという(笑)。え?9作品しかない? いいんですよ。こっちは数はうたっていないから…
小説ではありませんが、SFで科学というとやはりアシモフの科学エッセイは外すことができないと思うわけでして。その軽妙な語り口は尊大なのに実にチャーミングで憎めないものです。わかりやすいし、遊び心満載。
アーサー・C・クラークも数多くのハードSFを発表している巨匠ですが、ここでは「渇きの海」を取り上げてみました(「楽園の泉」「地球光」あたりと迷ったんですが)。月面をめぐる遊覧船が、月の砂の中に飲み込まれてしまうというサバイバル・サスペンス。手に汗握るクラーク作品という意味でも希少価値がありますか(笑)。今では、月面はこの作品で書かれたようにはなっていない、船を飲み込んでしまうような砂に覆われたりしていないというのはわかっているんですが、それでも本書の輝きが陰ることはないわけで。言い換えますと、たとえ後に誤っていると判明した仮説によっていても、きちんとした作りになっていればSFとしては何の問題もないわけですな。
ロバート・L・フォワードと言えば、中性子星に住むキュートな異星人「チーラ」が大活躍する「竜の卵」が有名なんですが、ここはあえて「ロシュワールド」を。ロシュの限界(二つの天体が互いの周りをまわる際に、どこまで近づくことができるか、の限界値)を超えたすぐ近くを回っている二連惑星での冒険譚なんですが、いや、クライマックスシーンはえらい壮大ですよ。あの壮大さが大好きなのであります。なんと惑星同士の○○が●●してしまうという! 映像化したらさぞやものすごいことになるに違いありません。
で、「さよならジュピター」。最近はハードSFの中でもいわゆるボルト&ナット型っていうんですか、技術的な側面に力を入れた作品が脚光を浴びることが多いんですが、理論的な側面に力を入れたものもあるわけで。日本でそういったハードSFといったら小松左京御大かなあ、と。「日本沈没」を挙げるのも気恥ずかしかったので、「さよならジュピター」を。えーと、映画版は見ないでこれまで過ごしてきております。はい。
ポール・アンダースンの「タウ・ゼロ」は手に汗握るという点では一番かも知れませんな。止まれなくなってしまった……つまり、エンジン付きっぱなしで加速し続けることしかできなくなってしまった宇宙船の話。止まれなくなってしまった乗り物の話というと、それこそ映画の「スピード」とか超有名ですけど、あれ、なんだかんだいって止まるじゃないですか。「タウ・ゼロ」では、本当に止まれないんですよ。なんかもう、取り返しなんか全然つかないくらいに止まれないんです。「どうやったら地球に戻れるのか!?」なんていうスケールの小さい話じゃなくて、本当にもうとことんまで止まれないんですよ。作風も文体もいたってスタンダードなものなのに、その思いつきとそれ本当に書いちゃうところだけが過激。
チャールズ・シェフィールドの「マッカンドルー航宙記」は逆に、小粒ながらもしっかりまとまった連作短編集。ポイント高いのは巻末に作者自身による科学解説が付いているところ。どこまでが科学でどこからがSFなのか非常にわかりやすい。実に良心的なつくりでございます。
で、まあ「プラネテス」は今更紹介するのも何なので飛ばして、「スタンダードブルー」。小川一水の「群青神殿」を取り上げなかった腹いせというわけではありませんが(笑)、伝記物の「朝霧の巫女」で知られる宇河弘樹、その前にこんな海洋SF書いていたんですな。魅力的なヒロインと海洋というフロンティアの大きさが同居した、愛すべき作品です。
で、最後の、何をいまさら感漂う「虐殺器官」なんですが。いや、前々から私はこの作品が、進化心理学をテーマにしたハードSFとしても評価できると思っていまして。虐殺というものが、人類が進化してきたなかでどのような適応として生じたのか、という、この視点を持ち込んだ時点でもう勝ったも同然でございます。実に優れたエンターテイメントであり、未来戦の戦闘描写に痺れた人も多いと思うんですが、そういった視点で捉えなおしてみると面白いですよ。


次は未知の存在とのコンタクトを扱った「ファーストコンタクト、侵略SF」のご紹介になります。
普通に考えると、スタニスワフ・レムの独壇場になりそうだなぁ……