すまない。また「炉心融解」の話なんだ。もうリピートが止まらなくてね。
音的なことは難しいことよくわからないんだけど、キャッチーでJ-POP的なメロディーやオケとドラムンベースをくっつけた時点で、もう勝ったも同然というか。ありそうで(特に最近は)なかった大衆向けカスタマイズというか。
前のエントリでは人力ドラムンベースしてたなという連想でKUDUを挙げたけれど、んでもってドラムンベースは全然詳しくないんだけれど、それでも4heroのアルバム「2 Pages」は持っていたりするわけで。この2枚組のアルバムの1枚目で黒人音楽的な文脈で試みたことをJ-POP的な文脈で試みたらこうなりました、みたいな。ちょーかっこいい、つーか。あたし、彼女。
で、ですね。歌詞がとても面白いと思うのですよ。
これは実にストレートでかっこいい自殺願望の歌だと思うのだけれど、自殺するための仕掛けとして核融合炉を持ってきたところと、その位置づけがとても面白い。
自殺願望をかなえるための道具に、なにかこう象徴的なテクノロジーを持ってくるというと、私の世代がまだ若かった頃、つーか冷戦構造の崩壊以前ですな、核戦争と相場が決まっていたわけで。それはいつかはわからないがいつか来る未来だった。
核戦争・核爆弾の性質上、その「自殺」は「人類の自滅」という、世界丸ごと巻き込んだものとなることが多いわけで。古くは映画「博士の異常な愛情」や、原爆の隠喩であるところのアイス9が登場するヴォネガットの「猫のゆりかご」とか。
冷戦構造が崩壊しても、この「世界丸ごと巻き込んだ自殺」という枠組みからの脱却はなかなか難しかったりしたんじゃないかなと思う。例えばエヴァンゲリオンは結局人類巻き込んだ自殺(しかも未遂)であったし。「最終兵器彼女」も、ある恋人たちの心中に全人類巻き込まれた話に読めなくもない。
エヴァンゲリオンや最終兵器彼女においては全人類ごとの自殺のために自前で架空のテクノロジーを作ったわけだけれど、核戦争・核爆弾による自殺が現実味を失った後でスポットライトが当たった自殺用テクノロジーやサイエンスってえと、細菌兵器・バイオハザード、はたまたパンデミックや隕石の衝突だったのではないかと思う。もっとも、そういった傾向の作品が冷戦構造崩壊以前に書かれなかったかというとそんなことはないんだけれど。ここで映画「12モンキーズ」を連想してもいいだろうし、その元ネタかもしれないティプトリーの短編「エイン博士最後の飛行」を連想してもいいだろう。また、映画「ディープインパクト」でとくに立ち向かうでもなく津波に飲み込まれるニュースキャスターや、隕石衝突が近づいた世界で様々なエゴや狂気が噴出する新井素子の「ひとめあなたに…」を連想してもいいだろう。
そんな風に思っていたところに出てきたのがこの「炉心融解」における核融合炉だ。この曲における核融合炉はあくまで個人の自殺装置として位置付けられており、しかもありふれていない、手垢のついていないテクノロジーだ。もし練炭が核融合炉と同じくらいかっこいいものであったら、どれくらい自殺が増えたであろうか。*1
この曲で、核融合炉は荒れ狂う恐ろしいものでも冷たい無機質なものでもなく、美しいものとして取り扱われている。歌詞を引用しましょうかね。
核融合炉にさ/飛び込んでみたいと思う/真っ青な光 包まれて綺麗
シンプルだけど、結構好き。
まあ実際に(どうやるんだか見当もつかないけれど)核融合炉に飛び込んだとして、それがあたりを巻き込む大惨事につながったりしないかなどと思わないでもないけれど、少なくともこの歌の主人公の視点では核融合炉はそういったものとして捉えられていない。
そもそもが、主人公が世界を巻き込んだ自殺を志向していないのだ。
世界を巻き込まない自殺装置として核融合炉が選ばれたのか。それとも核融合炉だから世界を巻き込まないのか。ニワトリが先か卵が先か。それともそもそもニワトリでも卵でもないのか。
さーて、なんで「主人公が世界を巻き込んだ自殺を志向していない」なんぞと断言しちまうか。
この曲では「君の首を絞める夢を見た」というフレーズが繰り返し出てくる。動画内ではその「君」というのが幼少期の自分であるかのように描写されている。精神分析を素朴に適用すると、過去の自分の否定であり、それでいて現在の自分に満足しているようでもないから、過去から変わってしまった自己の否定ってなことになると思うんだが、歌詞の中では「君=子どもの頃の自分」であるなどとは別に言われていないことには注意したい。「君」は恋人や家族や友人かもしれないし、単なる第三者かもしれない。実際、ユーザーから動画に寄せられたコメントでもその可能性が示唆されていますな。
さらにラストでこのフレーズは「誰もみんな消えてく夢を見た」と変わる。対象が「君」から「みんな」に変わった。そうすると、やはりこの主人公もすべての他者を巻き込むことを志向し始めたのかとも思える表現なんだが、そのあとの歌詞がその推測を打ち消す。引用しよう。
核融合炉にさ/飛び込んでみたら そしたら/きっと眠るように消えていけるんだ/僕のいない朝は/今よりずっと素晴らしくて/全ての歯車が噛み合った/きっとそんな世界だ
ご覧の通り、主人公が核融合炉に飛び込むことで世界の完成度が増すという認識であり、世界にとってのどうしようもない欠点である主人公の不在と、その欠点が除かれた後での世界の存続が前提となっている。
言い換えると、世界は特に間違っていない。
しかしあれだ。主人公は別に曲の中で死んでしまうわけじゃない。
自分は世界にとってマイナスであるという認識がこの曲の根っこにあるわけだけれど、それが「プラスである」に変わる機会ってのもあるだろう。その機会を活かせるかどうかは知らないが。
まあ仮に活かせたとして、その時主人公にとって核融合炉は何を象徴するテクノロジーとなるのか。救いとしての消滅をもたらす個人用自殺装置から何に変貌するのか。
非常に興味深いね。