万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

「生命進化の物語」がとても面白い本だったのですよ。

リチャード・サウスウッドの「生命進化の物語」を読みました。
最初の生命から現在まで生命がたどった進化の歴史を概観する本で、同趣向の本としてはドーキンスの「祖先の物語」やフォーティの「生命40億年全史」を読んだことがあります。どちらも面白い本でした。
が、この「生命進化の物語」はこの2冊に勝る長所を持った、とても素晴らしい本でして、発作的に紹介文などを書いている次第でございます。


「祖先の物語」は、現代から過去へ遡って進化を見て行くという手法の斬新さ、進化論におけるトリビア的な知識、ドーキンス自身の進化観・生命観などが読みどころです。
フォーティの「生命40億年全史」は、その時代にどのような光景が広がっていたのか生き生きと描写してくれるのがなんとも魅力的です。その光景を解き明かすために学者たちが繰り広げる人間模様も、いいスパイスになっています。
で、そんな2冊の好著に勝る長所とはなにかといいますと、それはまさに歴史的視点です。つまり、なにがどのように関係し作用したからこのような結果になり、それは更にどのような結果をもたらしたのかという物事の連鎖、つながりの視点です。
サウスウッドはそれを万華鏡に喩えています。引用しましょう。

それはあたかも万華鏡をのぞいているようなもので、ときどき一揺すりを加えると、その映像のある成分は姿を消し、別の成分は残り、または変化し、さらに新しい成分も付け加わってくる。*1

何が万華鏡をゆすったのか。それでどの成分がどのように移り変わったのか(つまり、その光景はゼロから突然湧いてきたものではないのです)を、簡潔で抑制のきいた文章で記述しているのです。
例を挙げますと、みんな大好き恐竜。恐竜には大きく分けると竜盤類と鳥盤類がいて、竜盤類は腰のところで恥骨が前を向いているのに対して、鳥盤類は恥骨が後ろを向いているんだよ、と。凡百の本だったらこれでおしまいなわけですよ。
本書はさらにここから、鳥盤類が全て草食性であり、そのために大きな腸が必要であること。そのため、竜盤類のように恥骨が前に向いていたのでは恥骨の上に大きな腸が詰まった太鼓腹が乗ってしまうため、バランスを崩してしまうだろう、ということを記述していきます。
そして、恐竜の説明に先立つ章では、植物が陸上に如何に進出していったか。そして、陸上で進化した大半の「植物」が、海中で既に進化していた他の様々な動物に比べると「最近」進化した生命であること。そのような今までに無かった新しい生命である「植物」を食べるために、動物の体はどのように進化していったか、などが既に語られているのです。
何かとスポットライトが当たることの多い古生物の大スターである恐竜ですが、恐竜も突然湧いて出てきたわけではありません。過去の生物から進化してきているのはもちろんのこと、他の生物や環境から影響を受け、蓄積し続ける変化*2を受け継いでいる存在であるということへの、実に見事な説明ではないでしょうか。
万華鏡に振動を与えたものは様々です。大陸塊の移動、火山活動、海水面の上下、種同士の生存競争、小惑星の衝突などなど。これらの要素自体は、進化論についての本を読むのが好きだという人にとっては、お馴染みのものばかりです。
しかし、それらがどのようにつながっているのかをここまでわかりやすく伝えてくれる本というのは、初めて読みました。
生命の歴史に興味がある、面白い本ないかな、という人には自信を持ってオススメしたくなる本です。まさに決定版。超推薦。

*1:本書10ページより

*2:そのペースには諸説ありましょうが