万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

進化論ファン・古生物ファン必読の〈生物ミステリー プロ〉シリーズは、世界に誇れるガイドブックだ!

技術評論社から刊行中の土屋健著〈生物ミステリー プロ〉シリーズが、もうめちゃくちゃ楽しい。
現在既刊は8冊。それぞれこんな感じ。

①「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」
地球上に登場した「生物」たち! 奇想天外なエディアカラ、バージェス、オルステン動物群! そしてそれらを生み出した「カンブリア爆発」とは!?


②「オルドビス紀シルル紀の生物」
多様性を増していく生物たちに襲い掛かるオルドビス紀の大量絶滅!そしてウミサソリ三葉虫の時代がやってくる! そしていよいよ植物が上陸開始!


③「デボン紀の生物」
着々と陸上進出を進める植物たちを尻目に、ついに脊椎動物が海洋を握った「大魚類時代」到来! サメvs硬骨魚類の戦いの中、一部の魚類はついに地上を目指す!


④「石炭紀ペルム紀の生物」
地上で繁栄する植物たちと昆虫たちに囲まれつつ、上陸を本格化させる脊椎動物たち! 両生類の繁栄、爬虫類の登場! そして古生代の締めくくりは史上最大! 96%の生物種を消し去ったペルム紀末の大量絶滅の原因とは!?


⑤「三畳紀の生物」
いよいよ始まった中生代! 大量絶滅でリセットされた世界に遂に登場した恐竜たち! しかし恐竜が覇権を握るのは三畳紀末の大量絶滅後の話。三畳紀を牛耳った生物とは!?



⑥「ジュラ紀の生物」
恐竜時代到来! 猫も杓子もジュラシック! 哺乳類もジワリと多様化しつつも、恐竜は繁栄を極める! そしていま明らかになる「始祖鳥の色」とは!?



⑦「白亜紀の生物 上巻」
⑧「白亜紀の生物 下巻」
やってきました中生代! とうとうこれで締めくくり! いよいよティラノサウルスが登場し、アンモナイトは海中でやたらグルグル巻き! そしてとうとう空から隕石が落ちてきた!


煽り文句は勝手に作った。
1冊2680円(税別)と、まとめて買おうとすると少しお高いが、むしろコストパフォーマンスは良い方の部類に属する本だ。なんなら図書館にリクエストしたりしてもいいと思う。
進化論ファン・古生物ファンは必読、最強のガイドブックですよ、こいつは!
以下、その魅力をいくつか挙げていこう



・化石写真や復元図がカラーで豊富に収録されている。しかも!
へんないきもの」ってな本がヒットしたことがあったが、やはり現在では考えられないようなへんてこな生物がかつては存在していたことを知るというのは、古生物に関する本を読むうえで大変な楽しみのひとつだ。
本シリーズでは、カンブリア紀だけとか白亜紀だけとかではなく、すべての紀を舞台にしてへんてこりんな生物たちが大活躍するさまを堪能できる。最高じゃないか!
しかしだ、ただへんてこりんな生物がたくさん収録されているだけの本ではない。それでは「分厚くなった『へんないきもの』」に過ぎない。
本シリーズは、たとえ見た目がなんてことのない生き物でも、それが進化の歴史を語るうえで欠かすことのできない生き物ならば、躊躇なくそれを取り上げる。そして、その生物が進化を語るうえでどのような位置を占めているのか、簡潔かつ丁寧に、ユーモアを交えつつ解説していく。
例えば2巻「オルドビス紀シルル紀の生物」で、何の変哲もない魚の化石と復元図が載っているけれども……それが現在知られている中で最古の「顎」を持った生物の化石だと知れば、見る目も変わってくるでしょう? そして「顎」が脊椎動物において世紀の大発明であったことを解説していくわけよ。素晴らしい。


・最新の論文も取り上げられている痒い所に手が届く内容
生物の歴史を語る上で様々なトピックが取り上げられるのだけれど、所々に2010年代に入ってからの最新の知見が顔を出す。そうそう、それが知りたかったんだよ! という痒い所に手が届く内容だ。
例えば「ティクターリク」という魚がいる。通称「腕立て伏せができる魚」。胸鰭の中に現在の我々と似たような骨格、関節を持ち、魚類から両生類への進化のミッシングリンクを埋める存在として有名な魚だ。
で、さらりと、2014年にティクターリクの後半身が新たに発見され、大きな骨盤と、鰭状だがやはり胸鰭と同じように骨格や関節を備えたいわば「後ろ足」が発見されたなんて書いてあるわけですよ。たまんないね、もう!


・大量に挙げられる、日本語で読める参考文献
本書の構成の一つのパターンとして「ある化石の発掘場所(化石がよく出てくる場所ね)からでてくる化石群、もしくは進化の歴史上でのトピックを語る上で、既刊の書籍を下敷きにして解説していく」というスタイルをとっている。
何がありがたいかって、挙げられる参考文献に日本語で読めるものが多いことだ。
進化に関する本を読んだことがある人ならわかってもらえるのではないかと思うのだけれど……あれ、なんとかならんかね、本文の終了後に数十ページ延々と続く脚注の山と英語の参考文献のリスト。
いちいちページを往復しながら脚注を読んだり、大量の英語の参考文献の山から邦訳されているものをみつけだし、さらにページを遡ってこれはなんの問題について語った時の本かななんて調べていくなんてのは、もう苦行に近い。
その点、本シリーズはとても親切だ。巻末の脚注がそもそもない上に、日本で書かれただけに挙げられる参考文献も日本語で読めるものが類書と比べるとずっと多い。しかも参考文献リストを見なくても本文で「それでは、××について、『○○』と『△△』を参考に見ていこう」と言及してくれるので、興味を持ったトピックについての参考文献がとても印象に残りやすい。なんて親切な!


・そしてユーモアを忘れない
簡潔で抑制のきいた本文だが、所々でユーモアが噴出しており、それが読み進めていく上で大変な魅力となっている。
例えば古生物の化石をアニメに登場するキャラクターに例えたり、珍しい状態で発見された化石(出産中の化石とか)について語る際に出産中に死んでしまった当の生物にいちいち哀悼の意を捧げたり、古生物の大きさを述べる際に比較対象としていちいち著者の愛犬(ラブラドールレトリバー)を何回も何回も引き合いに出したりとか。そういった控えめなユーモアが大変によろしい。特に日本で書かれた類書に多いように思うけれど、いくら図版が多くても、いくら志が高くても、本文が無味乾燥では本としての魅力は半減してしまう。やっぱり、文章が面白くないと!


というわけで、生物の歴史を概観する本というとフォーティの「生命40億年全史」(文庫 生命40億年全史 上 (草思社文庫)
文庫 生命40億年全史 下 (草思社文庫)
)が有名だし、個人的にはリチャード・サウスウッドの「生命進化の物語」(生命進化の物語
)が決定版だと思っていたけれど、本シリーズはその両者を凌駕すると思うので、マジでお薦め! いわばあれですよ、世界に誇れるレベルのガイドブックですよ!