万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

基本平日にしか休みがない俺が2011年に聞いて心に残った落語が約10席


去年聞いた落語を振り返ってみまして、心に残った10席を羅列してみようかな、などと。
とはいえ、基本的に土日祝は仕事していることがほとんどだったりします。つまり、ほぼ平日限定です。


2月28日 動楽亭 ざこば・円楽二人会 桂ざこば……一文笛

5月18日 繁昌亭昼席 桂福團治……南瓜屋政談

5月24日 大阪美術倶楽部 大美落語会 笑福亭竹林……近日息子

6月30日 繁昌亭 雀松向上委員会 桂雀松……菊江仏壇

7月20日 京都府立文化芸術会館 桂文我上方落語選京都編 桂文我……莨の火

8月23日 繁昌亭 京の噺家 桂米二でございます@繁昌亭 桂米二……寄合酒

9月14日 動楽亭 できちゃったらくご 笑福亭たま……ぼくは米朝一門

10月19日 京都市北文化会館 洛北葵寄席 笑福亭鶴瓶……錦木検校

10月20日 繁昌亭昼席 桂雀三郎……三十石 夢の通い路

10月23日 大丸心斎橋劇場 桂よね吉独演会 桂よね吉……子別れ

12月9日 ABCホール 笑福亭松喬ひとり舞台ファイナル4日目 笑福亭松喬……帯久



2月28日 動楽亭 ざこば・円楽二人会 桂ざこば……一文笛
初めて落語を聞いて涙ぐむ体験をした記念すべき高座だったり。クライマックスでのセリフに胸を突かれたような気分になり、そそくさとざこばさんのCDを買いに走ったのであります。登場人物のやり場のない怒り・悲しみが生のまま伝わってくるような高座でした。これ聴いて「ざこばさんってすごい」というのが刷り込まれたんだよなぁ。別の会で聞いた「天災」でも同じような衝撃を受けました。こちらは笑いの多い噺ですが、主人公の心境の変化に重点が置かれていて、感動ものだったのです。


5月18日 繁昌亭昼席 桂福團治……南瓜屋政談
上方での人情噺の第一人者、福團治師匠を初めて見た日。でも、今流行しているようなドラマチックな盛り上げ方をされる方ではないんですよね。簡潔な描写をひとつひとつ積み重ねていくような印象があります。さらりと聞かせて「ああ、いい話だったな」といい気分で帰れるような、そんなイメージです。重すぎず、軽すぎず。別の日の昼席では「今、骨折してまんねん」とマクラで自身の怪我を話題にしながら、腕を負傷する噺である「一文笛」をかけるなんていうことも。おおぅ。今度「ねずみ穴」聞きに行くのですよ。すっごい楽しみ。


5月24日 大阪美術倶楽部 大美落語会 笑福亭竹林……近日息子
この日は中トリの団朝さん、トリの文我さんもよかった、非常にいい気分で帰路につくことのできた会だったのですが、モタレの位置で演じられた竹林さんの爆発力がすごかったです。高座の前の対談が盛り上がり時間が押したようで、時間を短くした分エネルギーを結集させたような「近日息子」。このまま倒れてしまうのではと心配してしまうような動きっぷりで(笑)。今まで巡り合った高座では、軽めの噺で気持ちよく笑わせてもらうことが多かった竹林さんですが、「まめだ」で、ラジオだったら放送事故になるであろうたっぷりとした間を取って、ゆっくり、やさしく豆狸の身体を撫でる姿も印象に残っています。
大美落語会に行ってきました - 万来堂日記2nd


6月30日 繁昌亭 雀松向上委員会 桂雀松……菊江仏壇
冒険心のある精密機械のような雀松さん。「片棒」は今年三度聞いて三度とも腹抱えて笑ってしまいました。菊江仏壇、ネタおろしだという話をネットのどこかで目にしたんですが、本当でしょうか? ネタおろしでこの完成度だったら、今後練りこまれていったらいったいどうなるのか? とか思っちゃうんですが。人物描写の難しさを語られることの多い菊江仏壇ですが、脇役の心情変化までも鮮やかに。雀松さん、独演会で文化庁芸術祭賞の優秀賞を取られまして、幸運にも私、その独演会にも行くことが出来たのですが、主人公の無念さがひしひしと伝わってくるようだったあの日の「景清」よりもこの日の「菊江仏壇」の素晴らしさの方が強く印象に残っています。そのくらい、素晴らしかった。


7月20日 京都府立文化芸術会館 桂文我上方落語選京都編 桂文我……莨の火
珍しいネタを多く手掛けることで知られる文我さん。安定した語り口でどんな噺でも破綻なくじっくり聞かせてもらえます。後日、別の噺家さんで同じ噺を聞き、その出来の違いに愕然としたこともあったり(笑)。この「莨の火」が、今年かけられた演目の中でもメジャーな方であろうっていうのが、もうね(笑)。世話人をしてらっしゃる玉造 猫間川寄席は、(おそらく前座さん以外でしょうが)文我さんのみならず共演者の方も、第一回から一切重複する演目をかけていないという、ある意味、呼ばれる方にとっては恐怖の会でありましょう(笑)。



8月23日 繁昌亭 京の噺家 桂米二でございます@繁昌亭 桂米二……寄合酒
おそらく、2011年に一番多く高座を聞いた噺家が米二さんで。大ネタをいくつも聞いているのに挙げるネタが「寄合酒」だっていうのも失礼な話なのかもしれませんが、この日の「寄合酒」は本当に素晴らしかったのです。「寄合酒」と言えば浅い出番でかけられることも多いネタで、実際、開口一番でかけられていることだってしばしばあるのですが、この日はトリで「寄合酒」。軽いネタと言われるものでも何度もかけて練りに練られるとこうまで充実したものになるのか、と。よくよく聞いてみると随所に工夫がちりばめられているけれど、「どうだ、俺の工夫だ。新しいだろ」というドヤ顔感が全くない米二さんの高座は、結果としてその噺が持つポテンシャルを引き出します。また(米二さんにかかわらず優れた高座全般に言える事かとも思いますが)、時折情景が魔法のように目に浮かんでハッとしたり。それは例えば「池田の猪買い」で山猟師が『枝に手をかけて体を支えながら』山から雪の谷を見下ろす場面であったり、「不動坊」で幽霊に化けた講釈師が『屋根の上の仲間を心配そうに見上げながら』屋根からつりさげられる立体的な場面であったり。
8月23日 第十一回 京の噺家 桂米二でございます@繁昌亭 - 万来堂日記2nd


9月14日 動楽亭 できちゃったらくご 笑福亭たま……ぼくは米朝一門
笑福亭と米朝一門の対抗落語会が開催されることになり、中トリで笑福亭の若手が笑福亭のお家芸「らくだ」をかけることを知った米朝一門の若手が、「らくだ」に対抗できる必殺の大ネタを求めて一門の兄弟子に相談に来る……という、メタな笑いを満載した新作落語です。もう、笑いすぎて腹がよじれるかと思ったですよ。でも、爆笑必死の特殊なトレーニングの結果得られる成果は「踊りの所作」や「たばこを吸う所作」といった基本的なものの強化であるところに、たまさんの考え方が透けて見えるのかな、などとも思ったり。破天荒なイメージが強く、古典を手掛ける際にも噺にかなり手を入れるたまさんですが、高座を聞くことが出来た「寝床」「宿屋仇」などは、その改変も元の噺の流れをわかりやすく整理するためだったり、元の噺で弱かった要素を強くするためだったり。京都大学出身、上方落語きっての知能犯。関係ないですが、二度ほど繁昌亭で私服の姿をお見かけしたことがあり、かなりお洒落でらっしゃいます。
9月14日 できちゃったらくご〜新作ネタおろしの会〜/たまさんの「ぼくは米朝一門」で腹筋崩壊した - 万来堂日記2nd

10月19日 京都市北文化会館 洛北葵寄席 笑福亭鶴瓶……錦木検校
当初の予定にはなかったけれど、サプライズゲストとして登場した鶴瓶さん。実は、鶴瓶さんの「錦木検校」、以前にも聞いたことがあったのですが、その時には東京の柳家喬太郎さんの「錦木検校」の劣化コピーにしか感じられず、かなり不満でした。しかしこの日に聞いた「錦木検校」は全くの別物。ストーリーは同じですが、人物造形、噺の重点の置き方、印象的なセリフの使いどころ、すべてが鶴瓶さん独自のものへと進化しており、大変に満足しました。還暦を迎えようというベテランが、わずか数か月の間にネタをここまで改良できるものなのかと、強く感動したのを覚えています。
10月19日 第80回 洛北葵寄席/鶴瓶さんって、今度の12月で還暦なのね - 万来堂日記2nd


10月20日 繁昌亭昼席 桂雀三郎……三十石 夢の通い路
「三十石」という話、上方落語独特のものである旅ネタのなかでも代表的な「東の旅」の一番最後の部分となる、昔日の観光案内です。いわば風情を楽しむ噺なのですが、これは言い換えると、元々笑えるところが少ないだけに下手くそがやったらとてつもなく退屈になる噺、でありまして。そんな時には睡魔に身をゆだねるのですが。
ところがこの日聞いた三十石、風情たっぷりなうえに爆笑、だったのですよ。なんだ! こんなに笑える噺だったんじゃないかよぅ!
どんなアウェイでもホームにしてしまうような、高座で楽しい雰囲気を構築することに非常に長けた雀三郎さんですが、この日は目からウロコ。ネタに対する認識を改めさせてもらいました。


10月23日 大丸心斎橋劇場 桂よね吉独演会 桂よね吉……子別れ
当たり前ですが、感情の表現の仕方は千差万別です。よね吉さんは笑顔でもってそれを表現することが多いように思います。例えば、他の噺家さんなら顔をしかめて声を大きくして「なにアホなこと言うとんねん!(ビシィッ」ってな場面でも「んっふっふっふ……そりゃあお前でなくちゃ言えんなぁ」というような具合で。実に様々な笑顔のバリエーションでもって噺を構築して見せてくれます。
それは人情噺である「子別れ」でも同様でした。悲しいときの笑顔、泣きたいときの笑顔、悔しいときの笑顔、やりきれないときの笑顔。自分の感情を笑顔でごまかすという、ある意味極めて現代的ともいえる人物描写。それが見事にラストシーンでのカタルシスにつながりました。それまではよね吉さんの高座では愉快な噺しか聞いたことがなかったのですが、おおぅ。人情噺でもすごいのだなぁ。
10月23日 桂よね吉独演会/「子別れ」の登場人物たちは、皆、笑う - 万来堂日記2nd


12月9日 ABCホール 笑福亭松喬ひとり舞台ファイナル4日目 笑福亭松喬……帯久
言わずと知れた実力派の松喬さんですが、この日の「帯久」は場面の対比が非常に鮮やかでした。商売も順風満帆だった十年前の対面の場面と、火事で焼きだされ財産も家族もなくし落ちぶれた十年後の対面の場面。この会があった日に購入したCDに収録されいた「帯久」16年ほど前の高座で、その中ではその対比は人物描写のドラマチックな盛り上げで表現されていたのですが、この日はそういった盛り上げは控えめに、その代わり風景・状況の描写を豊かなものにすることで、シチュエーションの違いをうき立たせることによって表現されていました。言い換えると、人物のアップではなく、引いたカメラからの視点。10年前の録音と聞き比べてみると、変更された箇所は驚くほど些細な箇所なのですが、それが残酷なまでに10年前と10年後の違いを明らかにしている。映画を見ているかのような高座でした。
44歳の笑福亭松喬師「帯久」と60歳の笑福亭松喬師「帯久」を聞き比べるなど - 万来堂日記2nd



まあ、無理に10席挙げるとするとこうなるというだけの話なので、他にも満足した高座はたくさんあるし、こんなんその日の気分でいくらでも変わりそうなんですが。
他の候補を適当に羅列しますと、福笑さんの「備後屋敷」、塩鯛さんの「二番煎じ」、雀三郎さんの「地獄八景亡者戯」、鯉昇さんの「時そば」、文華さんの「仔猫」、文三さんの「堪忍袋」、米二さんの「池田の猪買い」「胴乱の幸助」「口入屋」、雀々さんの「船弁慶」、春蝶さんの「権助提灯」、ちょうばさんの「一文笛」、鯛蔵さんの「軽業講釈」、吉坊さんの「田楽喰い」「質屋芝居」、竹林さんの「まめだ」、生喬さんの「らくだ」、文我さんの「土橋万歳」、一之輔さんの「青菜」、染丸さんの「掛取り」、雀松さんの「片棒」、他多数……