万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

新治さんの「大丸屋騒動」を聞きに出かけたの。

久しぶりに落語を聞きに行った。京都までお出かけ。


ももやま亭 春の陣
新幸…つる
新治…狼講釈
玉之助(太神楽)
新治…大丸屋騒動
中入
新幸(弾き語り)
新治…ちりとてちん


新治さんの「大丸屋騒動」がお目当ての演目。ジャンル分けするならサイコホラー。妖刀に魅入られ徐々に正気を失っていく若旦那の姿を描いている。好きな演目で、音源も持っている。新治さんで生で聞くのは2回目。
初めて聞いたときはただただ圧倒されるのみだったが、今回は序盤でさりげなく張られている伏線に感心した。あとで音源を確認したら、以前は伏線は挿入されていなかった。新たに付け加えられたのだろうか。序盤、若旦那が長兄から妖刀村正を預かるシーンで「見るだけにしておけ。持ち歩くな。まして腰にさしたりなどするな。商人がこんなものを持ち歩くとろくなことにならない」と釘を刺されるのね。だもんで、中盤で妖刀を無邪気に腰に差して出かけるシーンで「ああ、駄目って言われてたのに…」とみている側は思ってしまう。また、伏線のシーンに前後して若旦那が「一途な性格」であることも言及され「だからこその悲劇」であることが暗示される。
また、徐々に正気を失っていく若旦那が町屋の奥に番頭を招き入れようとする場面で恐怖を感じたり。町屋の入り口で若旦那に声をかける番頭はまだこちら側、日常の側にいる。それから数メートルしか離れていないであろう若旦那の世界は既に日常から外れた狂気の世界であり、その世界に入って来いと若旦那が招いているようで。これは心底恐ろしい。
所作の鮮やかさが前は印象に残ったのだが、今回は鮮やかな色彩描写が強く印象に残った。前半の長閑さ漂う平和な京の風景描写から打って変わって、朱に染まる白薩摩、斬られ地面に落ちて燃える提灯、そして目の焦点が定まらない若旦那。さながら映像美に優れたサイコホラーといったところで。
伏線の張り方や、光あふれる町屋の入り口と闇に包まれた奥の部屋の対比、客の脳内に想起される鮮やかな場面の色彩などなど、非常に映画的な演目だなと感じた次第。