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万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

「天冥の標4 機械じかけの子息たち」はものすごく真正面からセックス(※体位の話ではありません)

ものすごい傑作です。個人的にはオールタイムベスト級ですわ。
つまり(個人的には、ですが)「スキズマトリックス」「暗闇のスキャナー」「スローターハウス5」「接続された女」「ハーモニー」「グラン・ヴァカンス」「Self-Reference ENGINE」「あなたのための物語」「日本沈没」「パプリカ」「エイダ」「戦闘妖精 雪風」「メンタル・フィメール」「地球礁」「クラッシュ」etc……といった作品群と肩を並べた事を意味するわけで。
本書は全10巻予定のシリーズの第4作。巻毎に作風や題材ががらりと変わり仰天してしまうことで定評があるんですが。
なんと最新作の本書は、最初から最後までセックスの話。
それも、「本当にいいセックスってどんなものなんだろう」と、少年が恋人と試行錯誤を繰り返していく話。
いわゆる物語を盛り上げるための濡れ場じゃないんですよ。セックスそのものが目的。それもえらく真面目に。

でも、糞真面目にセックスして気持ちいいのか?
うーんどうだろう。
……よし、やってみよう。

といった感じで、究極のセックスを求道者のごとく探求していく話なんですよ。
なにがすごいってね、こんなコンセプトの小説、今まで読んだことあります?*1
そりゃ、魅力的なセックスを描いた作品は星の数ほどあるでしょう。
でも違うんですよ。セックスで読者を興奮させることや、セックスをも含めた愛情の形を描いていくことが目的の本じゃないんです。
セックスそのものについて、少年なりにとことんまで考えて、実際に試行錯誤していく。良いセックスっていったいなんなんだろう? っていう本なんですよ。

……なんか字面だけ追うと、まるで性教育のテキストみたいですね。
実は全くその通りな一面を本書は持っています。それこそが、私が本書に肩入れする理由です。
皆さん、東京都の動きを初めとして、それが如何なるものであれ、若者層に対してポルノを見せてはならないという願望が向こうに透けて見える、様々な「青少年健全育成」への動きは、聞いたことがあるかと思います。非実在というキーワードで話題になった東京都の青少年健全育成条例が一番メジャーですね。
色んな反対意見が出ました。表現の自由が侵されることを懸念したものであったりとか。科学的な根拠に乏しいことであったりとか。
その中で、控えめな注目しか集める事ができなかった論点として教育の問題があります。
建前としては青少年健全育成のためにポルノを何らかの形で規制するのですから、ポルノを見せると問題のある大人になっちゃうって仮定があるわけです。
しかしですよ、これでは情報を遮断するだけなわけで。どのような情報を与えたらよいのか。どのような性教育をしたら……もっとぶっちゃけると、どんなフィクションで子供は性に触れたらいいのか*2といった議論は決して多くはありません……ていうか、ほとんど見なかったぞ、畜生め。
そこに放り込まれた爆弾が「天冥の標4 機械じかけの子息たち」です。
最初から最後まで、真摯にセックスについて考えています。というか、真摯にセックスに取り組んでいます。というか、真摯にセックスしています。
もしかしたら、もしかしたらですよ?
本書は、青少年に「悪い影響を与えない」のではなく、「いい影響を与える」ことは考えられないでしょうか? 全編セックスだらけにもかかわらず。いやむしろ、全編ただただ真摯にセックスしているが故に。
もちろん、本書の結末、すなわち少年が考えつづけ試し続けた結論に、読者が同意するかは別問題です。
しかしながら、人間の尊厳について真正面から挑んだ伊藤計劃「虐殺機関」「ハーモニー」が傑作であり、「自分が死ぬ」ということはどういうことなのか逃げずにあらん限りの想像力を持って考え抜いた長谷敏司「あなたのための物語」が、その作品内容に読者が同意や共感するかといったこととはまた別次元で傑作であるのと同様に。
気持ちのいいセックスってどんなものなのか、一冊丸々使って考え抜いた「天冥の標4」が傑作であることは、疑いようもない事柄なのです。私にとってはね。

あ、でも女性が読んでどう思うかは知らん。俺、男性の視点しか持てないので。

*1:え? みんなあんの? ほんとに? それは羨ましい

*2:今の世の中、それが肉体的なものであれ精神的なものであれ、子どもが最初に「性」に触れるのはフィクションの中においてでしょう。