万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

生物と無生物のあいだ

話題の新書を読了。
実に静かな本である。
本書では細胞膜の振る舞いに関して、詳しいことが書かれている。
なんと地味な!


そう、地味である。
まあ、基礎研究だからね。地味でしょう。
しかしながら、本書読了後では、その地味な細胞膜の研究というものが、いかに素晴らしいものであるか、いかに深い意味を持つものであるかに、静かな感動を覚えることになる。
素晴らしい本だ。


面白いのは、本書が細胞膜の話からはじめられるのではないということだ。本の題名に偽り無く、生命観の話から始まるのだ。
生命とは一体どういったものなのか。
この壮大な話が、偉大な学者たちの個人誌をたどる形で、実に丁寧に解説されていく。
すると必然的に、細胞膜の振る舞いへとたどり着く。そんな構成になっているのだ。
これが細胞膜の話を枕にして、壮大な生命観の話へと広がっていくような構成であったら、本書の魅力は半減してしまったことだろう。


大学で卒業論文というものがある。
「卒論でどんなことやったの?」という話題になり、返答に窮した経験がある方はいらっしゃらないだろうか? 私なんかそうなのだが。
もちろん、学生の分際で立派な論文が仕上げられたとは決して思っていない(というか、むしろ今思い返すと赤面するのみ)のだが、研究の質はさておき、それがどのような意味を持つものであったのか、その魅力をうまく説明できないのだ。
ちょっと口惜しい。


しかしだ、卒論でやった基礎研究にも、素晴らしい意味はあったのだ。その質はさておき。
本書は細胞膜の振る舞いという基礎研究が、どれだけ深い意味を内包したものであるか、鮮やかに示してくれる。
そしてそれが、私にはすべての基礎研究への賛歌に感じられたのだ。
その意味でも、本当に素晴らしい。