万来堂日記3rd(仮)

万来堂日記2nd( http://d.hatena.ne.jp/banraidou/ )の管理人が、せっかく招待されたのだからとなんとなく移行したブログ。

みんなでお勉強 その3:旅烏さん、「メディアと人間の発達」が横書きであることに恐れおののく

主にテレビで放送される暴力的な場面の影響についての研究をまとめた「メディアと暴力」([asin:4326601108])、アメリカで行われたテレビゲームに関する調査についてまとめた「ゲームと犯罪と子どもたち」([asin:4844327089])と読んできまして、今回、読んでみたのが「メディアと人間の発達」という本です。

Amazonでチェックしたら注文不可だったんですが、出版元である学文社のサイトを見てみたら在庫有になってまして、手にいれることが出来ました。あれだ、Amazonばかりに頼ってちゃいかんね。
で、届きまして、開いてみましたら、あら、横書きじゃないですか、みなさん。
……もしかして専門書?
私、一般人?
私、早まりましたか?


まあどうにかこうにか読み終えまして、はい。
専門書でした。
とはいえですね、読みにくいということはないです。平易な文章で、テーマに沿った研究のレビューが収録された物となっております。初学者入門向けの教科書といった感じでしょうか。250ページ弱とコンパクトにまとまってますし。
ただ、今までの2冊、特に「ゲームと犯罪と子どもたち」と比べると幾分、ハードルが高いかとは思います。
でも、読んで良かったですよー。
なんといっても守備範囲の広さ!
各章のタイトルを書いていきますと
「メディアと乳幼児」
「テレビと認知能力」
「テレビと暴力」
「テレビとジェンダー
「テレビゲームと認知能力」
「テレビゲームと暴力」
「テレビゲームと社会的不適応」
「インターネットと情報活用能力」
「メディアと国際理解」
「インターネットと社会的不適応」
「インターネット・セラピー」
「ロボットの影響―対ロボット知覚と有効利用,そして悪影響論―」
「メディア研究を人間発達の視点から考える」
となっておりまして、正直、もしこの本を最初に読んでいたらその範囲の広さゆえに途方に暮れていたかもしれないのですが、興味のある各論に関する本を読んでから読むには、絶好の本だと思います。


各章のタイトルを見ていただけるとわかるのではないかと思うのですが、本書はメディアからの影響についての研究を概観した本です。つまり、「悪影響」だけを論じているわけではありません。
イメージ的には悪い影響ばかりであるように思えることを良く調べてみるとそう単純なものでもなく、イメージ的にはいい影響ばかりであるように思えることもまた良く調べてみるとそんな単純なものではない、と言った具合で。いや、本当に使い方次第と申しますか。
そうなんです。本書を読み進めていくに従って浮かび上がってくる問題意識がまさにこの「メディアは使うものである」という点だと思うのです。


それが一番わかり易いのが、総括である最終章「メディア研究を人間発達の視点から考える」なんですが、この章だけでも、みんなに読んで欲しいと思います。
メディアの影響を語る際には、メディアについて取り上げるだけでも、コンテンツについて取り上げるだけでも、受け手について取り上げるだけでも不十分です。その3つの要素が相互作用するのです。言い換えると、その3つの要素がカッチりはまったときに目を覆うような大惨事が起こり得るし、時代を超えて語り継がれるような美談が生じ得るということです。
しかしさらにその3つの要素だけでもだけでも不十分なのです。
私たちはメディアだけに囲まれているわけではありません。親、兄弟、友人、同僚、近所のおっさん、イっちゃってる市長、お騒がせな知事、お役所の偉い人、政治家のセンセイ、昔からの文化、エトセトラエトセトラ……私たちが直接・間接に影響を受ける要素はどんどん外に広がっていき、際限がありません。
いや、少々風呂敷を広げすぎましたか?
いやいや、メディアについて研究・検討する時にメディアの外に目を向けるのが如何に大事か、ということなんです。
これは、メディアの影響に関する研究が何を目的になされているのかということと深く関連しています。
ぶっちゃけましょう。メディア以外の要素を考慮しない研究に基づいたアイデアを実際の社会に持ち込んで、そんなもん役に立つのかって話なんですわ。
なぜにメディアの影響が研究されているか。それはメディアとのうまい付き合い方、メディアのうまい使い方を研究し提案していくことで、それを現場にフィードバックして社会に貢献するためじゃないですか。
様々な要素が入り乱れる実際の、教育、家庭、生活の現場で効果が上がらんような代物は、あってもしゃあないんです。
例えばですね、治安の良い街Aと、治安のあまりよろしくない街Bがあったとして、両方の街で包丁を配りました。Bの方がAよりも犯罪が増えましたよ、と。その現状を改善しようとして、包丁のことばかり調べても仕方ない。
はい、包丁規制しました。犯罪減りました。でもAとBって犯罪の件数に差があったよね? それって、Bが何か問題を抱えていたんじゃないの?
その要素は何なの? 誰が調べるの? どうやったら解決できるの? それとも、このまま放っておく?
いや、また風呂敷を広げすぎましたか。でも、そういうことだと思うんですよね。